文具型とは「あなたが手を止めると、ソフトも仕事を止めてしまいます」と書きました。なら補助頭脳型の定義は簡単。
「あなたが手を止めても、ソフトは仕事を続けます」
猫でも杓子でも判る訳ですが、同時に普通、
自動化と言ったらこちらを指すわけで…。同時にどうしてそんな事になるのか、その理由も簡単。
「最初になにをするのか全部教えてあるから」
全自動炊飯器、全自動洗濯機のようにプログラムされている場合もあれば(立ち上がりの際に、人間がメニューから何をどうする、と言うのを選んでいると言うのもありますし)、バッチ処理のように実行前にプログラムを1から組み立てる必要があるものもあるでしょう。でも、重要なのはシステムが動き始めたときには、
よほどの例外条件を除いて、
どういう場合はどうする、というのを教えてある、と言う事です。
なので、どうしてそんな手品のような事ができるのか、という所から説明したりはしません。同時にこれが「よほどの例外条件」の場合は途中で止まったり人手を必要としたりするけれど、以下の議論ではそういう「例外」は起こらなかったケースについてだけ述べる、という点についても承知しておいてください。
あ、あともう1点。
「補助頭脳型」をなぜ「補助頭脳型」と呼ぶのかと言うと、まさに
あなたという名の主頭脳が付き合ってなくても処理が進むからです。ですので、補助頭脳は計算機かもしれませんが、
あなたの代わりに仕事をしてくれる人かもしれません。補助頭脳は機械である必要はないのです。この点を留意して置いてください。
さて。
補助頭脳型の自動化にはいくつかパターンがあります。理論上は5つあります。
- 完全全自動
あなたは全く関与する必要はありません。何から何まで全て、自動で行われます。
- 開始時点必須型
処理を開始するときに、絶対にあなたはいなくてはいけません。つまり、何かを始めるときにあなたがいないと、全くスタートしないわけです。
- 終了時点必須型
処理を終了するときに、あなたが絶対いなくてはいけません。つまり、自動で出来る処理が終わった時にあなたが側にいてすぐさま出来たものを次の処理に運ばなくてはいけません。多くの場合、できたものに「鮮度」がある時にこうなりますが、他にも自動車工場のように出来てくる物が大きくて貯蔵スペースが足りないときもこうなります。
- 両端必須型
2, 3の両方を兼ねそろえているタイプです。あなたがいないと作業は開始しないし、終わるときもあなたは必要です。ただ、途中はいなくなっても構いません。
- 中途処理型
2,3,4 は始まりや終わりに人手が必要でした。このパターンは「作業の真ん中で」あなたの人手を必要とします。
1 の「完全全自動」は実現できたらとてもうれしいのですが、現実問題としては実装できません。理由はちょっと考えると簡単です。たとえば自動車工場を考えてください。完全全自動の自動車工場を作れたとしましょう。でも、その工場には自動車を作るための材料を与えなくてはいけません。工場から出てきた自動車をお客様の下に運ぶ必要もあります。どちらも
工場自身には出来ない仕事です
つまり、現在の所、どうしたってあなたの人手はどこかで必要なのです。
「じゃぁ、2,3,4,5 だって同じじゃないか」
その通り。「あなたの手を煩わせる」という観点だけでものを言えば、全ての自動化は 4 のパターンが縦に一杯並んでいるものになってしまいます。ですので、上の説明をよく読んでください。これらの自動化は「あなたを煩わせるかどうか」ではなく
あなたを煩わせるタイミングが固定かどうか
で分類されているのです。
文具型と 2,4 の違いは「洗濯機の進化」で説明するのがわかりやすいと思います。
昔々、洗濯板といわれる、もはや女の子をからかう以外使われなくなった(そして、からかう側もからかわれる側も、現物を見た事などほぼ確実にない) 板を使って洗濯は行われていました。これはまさに文具型。洗濯板は汚れを落とす効率を上げてはくれましたが、あなたが手を止めれば汚れは落ちません。
話を簡単にするために、ある分量を洗濯するには 1時間かかったとしましょう。
ここに、画期的な製品が現れました。「洗濯機」です。
洗濯機は洗い物を入れ、水を張り、洗剤を入れると、『洗う』という作業を自動的にやってくれました。5分から10分ぐらいの時間、あなたは洗濯から開放されると同時に、ハードワークからも開放されました。その後、洗い物を取り出して
手で絞ります。排水し、水を入れなおして今度はすすぎです。洗い物を入れて、また 5分から10分…あなたはすすぎの間の時間洗濯から開放されます。もちろん、ハードワークからも。そして洗い物をまた取り出して手で絞り…干しに行くわけです。
見ての通り、これは典型的な 4 のパターンです。
同じ分量を洗濯しているとして、上記の通りだとすると、20分 + 絞り…そうですね10分としましょうか…かかります。色物と、それ以外を分けているとすると、合計60分でこれは変わりません。しかし、内、40分の作業は機械がやってくれます。40分分のハードワークからの開放と、その40分間別のことが出来る(1度には10分しか空いていないため、それで終わることしか出来ませんが)事になります。
その後現れた「二槽式洗濯機」は、「絞り」も自動的にやってくれます。しかも「洗っている最中」に「絞る」ことができるのです。つまり
- 色物洗い
- その他洗い, 色物絞り
- 色物すすぎ、その他洗い
- その他すすぎ、色物絞り
- その他絞り、色物干し
- その他干し
のように洗いと絞りを並列処理する事が出来るようになりました。見ての通り、結果として処理時間が10分短くなり、絞るという重労働からも開放されています。しかし、相変わらず10分ごとに洗濯機の相手をしなくてはいけない事に変わりはありません。
「全自動洗濯機」。いまどきの洗濯機の大半はこれですが、これの最大のポイントは、
洗いとすすぎと絞りを全部やってくれる
事です。30-40分間、洗濯機の相手を全くしなくても良い。長い連続した時間、選択から開放されるわけですから、掃除だろうが皿洗いだろうが、何か集中した事ができます。ただし、色物とそれ以外に分けると、合計で 60-80分洗濯にかかるわけですから、「洗濯そのものにかかる時間」は伸びています。延びていますが、人間が関与しなくてはいけない時間が1箇所にまとまったため、時間を有意義に使いやすくなったのです。
しかし、全自動洗濯機も 4 のパターンです。洗濯機をスタートさせる際には、洗濯コースを選び、洗い物を放り込み、洗剤等をいれ、Go! を押す必要があります。洗い終わったらとっとと洗濯機から取り出して干さないと、洗濯物は
腐ります。このため、洗濯を開始したら、終わりのタイミングであなたはまだ洗濯機の相手をしなくてはならず、そのタイミングをずらす事はできないのです。
しかし。ここに。とうとう文明の利器が。現在における洗濯機のファイナルバージョン。
乾燥機能付き、全自動洗濯機
の登場です。実はこいつは
2 のパターンなのです。洗濯を開始するために必要な人手は今迄で最大です。乾燥モードまで走らせると…特に私が持っている洗濯機が初期型だからかもしれませんが…5時間近くもかかります。しかし、
乾燥し終わった洗濯物は腐らないのです。
洗濯機を使わないのであれば、何ヶ月放置しても大丈夫。この意味において、洗濯の処理が終わった際に、
そのタイミングで、あなたは必要とはされないのです。
実際、私が良くやるのは、海外出張の直前に洗濯機を動かして出発する事です。1週間後なのか、1ヵ月後なのかはともかく、それまで洗濯物は洗濯機の中です。全自動洗濯機までの洗濯機であれば、どのやり方でも確実に洗濯物は腐ったでしょう。しかし、乾燥まで済ませてくれる事で、洗濯物は「私が出張から帰ってくるまで待っててくれる」ようになったわけです。
3のパターンは…どちらかというと、「障害対策」などでよくあるパターンです。ちょっと家電における良い例が思い浮かびません。
サーバなどの計算機は、必ず「バックアップ機」が用意されています。サービスをしてくれている機械にトラブルがあった場合、自動的にそれを検出する機構が用意されていて、自動的にバックアップ機に切り替わります。これによってサービスが止まってしまう時間を0…あるいはものすごく小さくする事ができます。
しかし、壊れた機器をそのまま放置する事はできません。壊れていないものと置き換え、新しくすえつけたものをバックアップとして登録しなくてはいけません。つまり、障害が起こってからすぐは自動的に処理してくれますが、
最後のお片づけは人間がやらなくてはいけないのです。
この方式の良い所は、「お片づけのタイミングを少しだけ後ろにずらせる」事です。夜中の3時に機械が壊れて、バックアップがなければサービスはそのままとまってしまいますから、人間は夜中の3時に叩き起こされ、対処をする羽目になります。このバックアップ機のお陰で、朝の9時に出社したら機械が
「直せーーー、俺は壊れたーーー、直せーーーー」
と叫んでいるのを目にしてから対処しても間に合うわけです。
しかし、あまり長い事放置は出来ません。予備は使い尽くしたのですから、次に故障したらもう終わりです。そうなる前に「予備」を準備してあげなくてはいけません。洗濯機の例で、洗濯物が「腐る」のと同じ事です。その意味で、いつ人間が関与するのか、そのタイミングは 2 のケースほど自在にはなりません。
最後に 5 のケースですが…これの最も判りやすいのは「スチャラカ上司」ですね。
あなたが仕事上何かを購入しなくてはいけないとします。どのメーカーの何を買うのかは決めました。でも、即、注文と言うわけには行きません。偉い人が「その経費を出すよ」と、物品購入書にサインをするなり、判子を押すなりしなくてはいけないわけです。
その人が判子を押したら後はまた、あなたの仕事。購買部に発注を掛けるなり、自分で発注するなりして、受け取って、設置して、それを使えるようにして、実際に使って成果を出して…
スチャラカ上司の立場に立って考えると、これは 5 のケース、つまり「真ん中であなたがサインしないと仕事が進まない」ケースになっている事に気がつくと思います。
実際に 5 のケースになるのは、自動化しているはずのシステムがちゃんと動いているかどうか確認するため、である事が多いようです。おカーちゃんが、子供がちゃんと勉強しているか、監視するのと同じですね。
今回は、『補助頭脳型』の定義と、その自動化の種類について述べました。現実に存在しえるのは:
開始時点必須型、終了時点必須型、両端必須型、中途処理型
の4種類である事と、それぞれが「あなたが拘束される時間が決まっているかどうか」で決まる事、などを説明しました。
実は、自動化を考える場合、もう1つ、評価軸があります。文具型の場合はあまり気にする必要はないのですが、補助頭脳型の場合は特に注意が必要な、もう1つの評価軸について、次回は説明しましょう。
問3の答え:
小学校時代に読んだ本の中に書かれていたガウスの逸話を思い出して、そこに書かれていた解法をなぞりました。
「なぜ思い出したか」に対しては「1から100までの数」「合計」という語から私の脳において連想記憶が働いたのだと思います。