で、そこで説明し忘れたのがよい転職先の見つけ方。
戦略無しの転職ではただのギャンブルになってしまう。いくら私でも、よい転職先と悪い転職先の存在比率が悪い方が多い事ぐらいは知っている以上、当然私にだってなんらかの戦略はある。壮行会で説明し忘れていたのでここに書いておこう。
よい転職先を見つけるためには次の5ステップを踏むとよい、と私は考えている。
- 「よい転職先」の定義を決める
- 「よい転職先の定義」に基づいて、物差しを自分の中に作る
- よいリクルートエージェントを見つける
- リクルートエージェントに、自分がやりたいことと、「よい転職先」の定義を教える
- 一杯面接をして、「よい転職先」かどうかを判断する
1. 「よい転職先」の定義を決める
よく考えてみるとコレは当たり前の話なのだが、「何がよい」「何が悪い」をちゃんと決めないで「よい仕事」「よい仕事場」を求めても何も得られない。当たり前だと思っていても意外とその内容ははっきりしていないものだ。一度きちんと考えてできれば書き出してみるとよい。
これはあなた自身にとって、何が大事で何がどうでもよいことかのリストなので、このリストに「こういうのが良い」「こういうのが悪い」と言うものはない。ただ、仕事は本来ご飯を食べるための活動ではあるので、その点を無視しすぎるのは良くないと思うが。例を出そう(私の価値基準は少しは混ぜてあるが、本質的にはいろいろな人の価値観を並べたものだ)。本当に何でもよい。
- 給料が高い/給料はどうでもよい
- 世間に貢献している/世間なんか知ったことか
- Open Source で食っている/Proprietary Soft が一番だぜ
- 女の子の存在比率が高い/低い
- 家から近い/遠い
- 活動の場がGlobalだ/地域密着だ
- 技術力が高い/自分が活躍しやすいよう技術力が低い
- 尊法精神が高い/法律なんかくそ食らえ
- お客様が命だ/社員を大切にするぞ/私(CEO)の満足度以上に大切なものなどあるものか
あと、優先度も決めておくとよいだろう。
「家から近いが女の子がいない職場」対「家から遠いが女の子がたくさんの職場」ではどっちを取る?とかね。ただし、もし厳密に決められないなら、この段階では決めなくてもよい。
2. 「よい転職先の定義」に基づいて、物差しを自分の中に作る
1. のステップを実行してみるとすぐわかることだが、実はこれが思っているよりも難しい。難しい理由はいくつもあるが、一番の理由は 自分の中に物差しがない からだ。このため自分の要求が満たされるために必要な条件、相手に求める能力などが明確にならないのだ。
たとえば、「給料が高いほうが良い」としよう。高ければ高いほど良いのは、それはいうまでもないだろうが、では幾らなら満足だろう? 最低ラインと言うものがあると思うのだが?
基本的に、企業はあなたの会社での活動を他の人の活動と組み合わせて利益を出している。その利益の一部が貴方の給料になる。と言うことは、給料を上げるとはすなわち貴方が自分の持っている技術なり何なりで、どれぐらいの現金を作り上げる事ができるかわかっている、と言うことだ。現状の給料が安すぎるならば、それは会社に無駄があるか、貴方が自分の実力を思い違いしているか、どちらかだろう。では、あなたは今、いくら分の技術力を持っているだろう?
「世間に貢献する」と言うのも似たような難しさがある。「世間」とはどこで「貢献」とはどのようなことを指すのだろう? たとえば、IBMの研究所はVital to IBM, Vital to the World(IBM に貢献する、世界に貢献する そんな研究成果を出す)という合言葉を持っている(正確には「いた」。今はどうなんだろう???)。IBM のほうは企業だから「企業利益に適うような」ものを作る、というのは比較的優しくわかる。では「世界に貢献」のほうは???
たとえば Linux にパッチを送るのは世界に貢献していると言えるのか? そのレベルでは「誤差」のようなものだからカウントしないのか?世界とは貴方の周りのことなのか、貴方がよく知っている国は勘定に入れるのか、貴方が知らない国も勘定に入れるのか? ウェイトは? あなたの周りに多くの貢献があり、貴方の知らない国には少ししか貢献しないほうがいいのか? 逆か??
給料とか、待遇、尊法主義などいくつかの考え方に関しては、優秀な経営者かどうかという概念に行き着く。では、優秀な経営者とはどういう人の事を言うのか?!?! 当然ながら、優秀な経営者の何たるかを判らなくては、相手が優秀かどうか識別できない。と言うことは、あなた自身が結構勉強して優秀な経営者の何たるか、を理解しなくてはいけない。
たとえあなた自身が技術者であったとしても、優れたリーダーとは何か、とかそういう事を学習しなくては、相手が優秀なリーダーかどうか、識別できない。
もしかしたら、定量化できるかもしれないものについては定量化しておく。定量化できなくても比較できるようならそのやり方を覚えておく。また、項目同士の優先度もつけ方がわかるかもしれない。先ほどの例
「家から近いが女の子がいない職場」対「家から遠いが女の子がたくさんの職場」
なら、たとえば女の子の数が10%増えたら、家からの距離が10%伸びでも良いなどという、自分自身の価値観のルールが判るかもしれない。
ようするに、この段階であなたは物差しとする価値基準に関して、かなりの知識をつける必要がある事に気がつくはずだ。当然、それらの知識を身につけたうえで、良い転職先の定義からやり直す必要が出てくるわけだ。
3. よいリクルートエージェントを見つける
取り合えず、物差しができたとしよう。では次に必要なのはよいリクルートエージェントだ。
新しい職場探しを自分だけの力でやるのは、大抵の場合ナンセンスだ。自分ひとりだけのために求人情報を収集するのは効率が悪い。逆に、100人のために求人情報を収集したとしても、一人のための場合の10倍の手間にはならない。
したがって、リクルートエージェントを使って新しい職場を探すことそのものは、不思議でもなんでもない。大学でさえ、就職活動のための支援をしてくれるではないか。
問題は、リクルートエージェントからするとあなたは「大勢の中の一人」に過ぎないと言うことだ。100人のうち80人について、優れた満足度が得られればよいとするエージェントに当たってしまうと、あなたは「残り20%にならないための賭け」に出た事になってしまう。これではなんのために転職するのだかわからなくなってしまう。だから、ここに戦略が必要になる。
戦略は2つ。
1つめの戦略は、「あなたも多くのリクルートエージェントを利用する」だ。何もエージェントは一人1社しか使ってはいけない、などという法はない。2社使えば、1社あたりははずれが20% もあったとしても、2社両方がはずれになる確率は 4% にまで下がるのだ。3社使えば 0.8% だ。これぐらいの確率であれば、良い結果が得られるに違いない。
もう1つの戦略は、「あなたを満足させる確率の高いエージェントを見つける」だ。このためにも実はさらに多くのリクルートエージェントを利用することが望ましい。そこから、あなたの希望を正しく理解してくれるエージェントを見つけ出し、残りを切り捨てるわけだ。
実は2つ目の戦略はとても重要だ。リクルートエージェントは利用する際に『あなたの希望』を必ず『聞いて』くれる。問題は聞いた内容を理解してくれるかどうかにある。別に相手が悪意があるとかそういう意味ではない。リクルートエージェントの多くはリクルーターとしてのキャリアが長い。と言うことは「それ以外のキャリアは短い」と言うことだ。すると、たとえばあなたが技術者の場合、技術的な要件などはよく判っていないということ。
「Open Source で活躍している企業」
という要件だったとしよう。本当に活躍しているのか、口先だけなのか、リクルーターはほとんど判別がつかない。何しろコンピューター系の大企業はどこもカタログには「Open Source」をうたっているのだから。するといい加減にしか聞いていないリクルーターは カタログに Open Source と書いてある という理由でこの会社を推薦してくる。これではリクルーターをエージェントにして賭けをしているだけだ。
リクルーターによっては、ある程度この辺の事が判る人も要る。普段から勉強するからだが、このあたりになってくると「リクルート会社」ではなく「エージェント個人」の資質の問題になる。その意味では、よいリクルートエージェントを発見する とは「よいリクルートエージェントを仕事にしている個人に出会う」ことを意味する。逆に言うと、大手企業かどうかを重視しないほうが良い。それよりも担当者をきちんと割り当てる会社の方が良い。
ますますもって、数をこなさないと良い人には出会えない理由が判ってもらえるかと思う。
4. リクルートエージェントに、自分がやりたいことと、「よい転職先」の定義を教える
リクルートエージェントは超能力者ではない。また我々自身に比べればどのような場合でも専門知識は少ない。結果、リクルートエージェントは転職する我々からすれば「普通、常識」で済むような知識が無かったりする。
従って、リクルートエージェントには自分がやりたいこと、出来ることと、自分が欲している「よい転職先」の定義を全て、はっきりと、判り易く伝えることが大事だ。もし、自分の要望を判り易く伝えられないのでは、エージェントだって適切な判断は下せない。だから、この辺は「子供でもわかるように」表現できるようになっておこう。
こちらが説明する際に、エージェントがメモを取るかどうかは気にしなくていい。どちらかというと数週間後に最初の会社を紹介したときに、相手がこちらの言う「良い転職先」の規則を覚えていて、それに則っているかを確認する。忘れてたら、ここでグダグダな説明をするから。
2度同じようにグダグダな説明をしたら、そのエージェントは切り捨てればよい。
5. 一杯面接をして、「よい転職先」かどうかを判断する
n名のエージェントを使えば、最低限n回の面接をすることになる。
それだけの数をこなすことで、次のような点を見抜く目を養おう。で、初回で「これは」という所が無ければ、さっくり全部断ろう。そして次を探させるのだ。
- あなたの言ったことを理解したエージェントは誰だったのか?
- あなたの考える「良い転職先」の条件と合致しているエージェントは誰だったか?
もし、今回が最初ならば、最初からベストな相手を見つけてこれるエージェントは(たとえ相手がどんなに優秀であっても)いない。エージェント側もそれは判っているので、NO と言っても大して問題ではない。
こうして何度も対面面接を行い、自分の主張を相手に説明することで、いくつかの効果も得られる。これらは、あなたが転職した後の仕事にとっても有利になるはずだ。
- 発表練習の代わりになる
- 対面面接に慣れてくる
ここまでやったとしても、最終的に自分の判断が正しかったかどうかは、転職してみて、勤めてみなくては判らないものだ。もし、肌に合わないと思ったら、再度エージェントにコンタクトを取ればよい。最初は慰留するだろうが(*1)、最終的には手伝ってくれるはずだ。
安心してよい。世の中は広く、仕事は多い。最初の会社がベストだったなどと言うケースは滅多にないし、あったのなら何年か外を回った後、戻ればよい。あなたが他の会社で見聞きした経験は、貴重な付加価値となってあなたの評価を上げるはずだ。
*1) リクルートエージェントは、最低限3ヶ月とか6ヶ月とかの期間、あなたが勤務してくれないと紹介料をもらうことは出来ない。従って、エージェントが儲かるには次の2つの条件が最低限必要になる。一過性の金を稼ぐには 1,2 で十分だが、紹介された会社からの評価を高めるには3が必要なのだ。だから、2の条件を満たすために最初は慰留する。しかし、あなたと紹介した会社の相性が本当に悪かった場合、会社もあなたも満足せず、3の条件を満たすことなく、あなたと会社の両方から、低い評価を受けることになってしまう。これでは意味がない。
- 数多くの人間を新しい職場に転職させ
- そこで1年ぐらいはい続けてくれる。
- 半分以上が3年以上い続けてくれる
このため、最終的には再転職先を探してくれるようになる。逆にそうしないエージェントも良いエージェントではない(*2)ので、切ればよい。
*2) 良い会社を見つけるには「良いとはどうある事を言うのか知る必要がある」と言った。
たとえば、良い経営者を知るには「良い経営者とはどういう人か」を知らなくてはいけない、と。コレは究極的にはあなたも「経営者としての心構え」などを勉強する必要がある、と言うことだ。
同様に、良いリクルートエージェントを見つけるには、「リクルートエージェントとはどういう仕事をする人なのか」をある程度知らなくてはいけない。この辺を理解しておくかどうかで、相手にいつ、何を期待できるのか、その辺がわかるようになるわけだ。
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