2010年1月21日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -3.3- off demand

まず最初に一番大事なことを。

商売は、基本的に on demand である

お客様に
「これこれこういう物にならば、こんぐらいまでのお金を払ってもよい」
という要望・欲求が発生する。それを実現するものをその場で提供する。あなたにお金が入る。これが商売。だから、「要求に応じて」(on demand)。
エリヤフ・ゴールドラット博士が制約理論を振り回して言っているのも、ようするに on demand で商売をしろ、 on demand を徹底しろ、と言う事に他ならない。

「なーんだ。じゃぁ、どうやったって無理じゃん」
あー、いや、そうじゃないんだな。確かに商売の基本は on demand なんだけれども、あなたの元に「要求」がやってくる頃には、お客様の demand はなんかおかしなものが一杯ぶら下がった状態になっている。それら、「おかしな demand」を外していこう、というのがここでいう off demand。

例として。あなたがサラリーマンで、どこかの事務所に務めているとしよう。多くの事務所では、18:00 ぐらいになると清掃の人が入ってきて、ゴミの回収と床の掃除機がけをしてくれたりしないだろうか?

では、ここで質問。
清掃の人が、18:00ぐらいにゴミ回収と床の掃除機がけをする、
その理由は?

うん。仕事の最中に掃除の人がうろうろするのは邪魔だよね。機密情報を見られるかもしれないし。だからせめて定時を回ってから掃除をして欲しい。それは清掃会社からするとお客様の demand だよね。
でも、じゃぁ、なぜ 18:00? 19:00 とか 20:00 とか… 22:00 とかじゃなくて。いや、03:00 とかでもいいはずだよね? なぜ 18:00?
清掃をする人からすれば、そんな夜中に仕事をしたくない。清掃会社も自分の社員に深夜手当を出したくない。コストがかかるから。だから、なるべく早い時刻帯に清掃をやりたいわけだ。これは 清掃会社側の demand だよね。

このように見てみると、実は「18:00ぐらいにゴミ回収と床の掃除機がけをする」という、たった1つの作業項目には、お客様の demand 以外のモノが含まれていることが判る。そして、お客様側の demand はなかなか手をつけられないかもしれないが、自分側の demand は取り外せるかもしれない

上の話に関して、清掃会社側の demand を一部、off demand する一例をあげよう。ルンバ を知っているかい? iRobot社が出している自動清掃ロボットだ。似たような物にロボクリーナーというものもある。
どちらも、部屋を掃除させるとその動きはものすごく馬鹿だ。人間ならその何百分の一かで掃除出来るような所をえっちらおっちら掃除してくれる。でも、十分な時間をかければそこそこの掃除はしてくれる。でも、やはりその結果はそこそこ。はっきり言って
四角い部屋を丸く掃く
と言う表現がぴったりだ。

このルンバに毎晩あなたの事務所を掃除してもらったらどうだろう?そう… 22:00とかにスタートさせるんだ。 多分一晩かかるだろうし、掃除出来るのは床全体の 80%を超えることはありえないだろうが、まぁまぁ、きれいになる。で、週に1度だけ人間が掃除機をかけて、残り20%…主に部屋の角になるんだろうけれど…に掃除機をかけてもらう。
ルンバは一晩中掃除をし続けるだろうけれど、その頃には事務所にはあらかたの人はいなくなっているから邪魔ではあるまい。一晩中掃除をし続けるとしてもロボットだから就労規則もへったくれも無い。文句をいうこともなく、深夜手当も必要ない。

ゴミ回収は相変わらず人間に毎日やってもらって、その時にルンバの中のゴミも回収してもらう。

これで、清掃会社側の demand 「夜遅く掃除機を掛けると深夜手当が必要だから、なるべく早い時間帯に掃除機をかけたい」の一部は解消されたよね。人間が掃除機を掛けるのは相変わらず 18:00 からだけれど、それは週に一度になった。
ゴミ回収の時刻は 18:00 じゃなく 18:30 からにできるかもしれないね。掃除機を掛ける時間が不要になった分時間が短縮できて、ルンバのゴミも回収しなくちゃならない分時間が伸びるから、多分稼げるのは30分程度だろう。

似たような事は前に買いた日記新社会人にあなたならまず何を教えるか? -8- Automation の種類 - 補助頭脳型」でも説明した。こちらは、乾燥機能付き全自動洗濯機の例だった。濡れたままの洗濯物は腐っていくが、乾かせば腐らない。洗濯機に乾燥機能がつく事で、あなたが洗濯物の demand に縛られる必要がなくなったわけだ。

off demand は機械化との相性がものすごく良い。大抵の制約は人間に起因しているので、人間じゃないものを使うと demand が消えることが良くあるのだ。ただし、機械の demand が発生することを忘れちゃいけない。ルンバの例だと、電気を沢山消費するようになるはずだ。

off demand を実現するために demand を分類しそれぞれの発生原因を考え始めると、実は Market Fundamentalism について考慮・実現方法を探っている事と同じだ、と言う事に気がつく。当たり前の話だ。
ルールというのは demand の一形態に過ぎない
偉い人が、下の人に自分の demand を押し付けるための形態がルール。けれど、その demand は実現するために常にコストがかかることを気にした方が良い。demand をルールにする前に、
そもそもなぜそんな demand が発生するのか
検討した方が良い

大抵のおかしな demand は、問題の設定が間違っていることにそもそもの原因がある。「自分では原因だと思っていること」が単なる症状に過ぎず、故に解決するべき問題を間違っているわけだ。症状をいくら隠そうとしても、根本原因は直っていないので、別の形で何度でも吹き出してくる。
「真の問題は何か?」
「それは誰にとっての問題か?」
という観点が曖昧だったり、定義がいい加減だったり、感情論でスタートしていたりすると、狂った demand が発生し続け、コストばかりかかって結果がでない、と言う状態が続く。このような無駄が内在していると、お金がいくらあっても足りなくなる。だから、まず最初に「ライト、ついてますか」を読んで、問題とは何か、を考えなおすことから始める必要がある。
そして、可能な限り demand を消す方向で、検討をした方が良い。demand がなくなれば、そもそも demand が満たされているかどうかを確認する必要がなくなる。つまりコストダウンに直結するのだ。demand が満たされていることを確認する人件費よりも、demandを消滅させるための機械化に掛けるコストのほうが、長期的に見て安い場合が多い。

効率のよい企業は、ルールは少ないものだ



off demand が進んだ会社では多くの物事が Market Fundamentalism に基づいて定義されている。つまり「放っておくと望む方向になる」ように設定されている。すると 管理職が少なくて済む という状態が生まれる。一人の管理職が面倒をみることが出来る部下の数が増えると言うことは、組織のピラミッド構造が深くならずに済むと言うことで…組織化に伴うオーバーヘッドが減るのだ。
off demand は他の方式と異なり、下っ端数 n がいくつになっても成立するが、ピラミッド構造がなくなるわけではない。Scalabilityという観点で見るならば、off demand は管理効率を向上させる数少ない…ほとんど唯一の手段だ。

2010年1月11日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -3.2- 機械化

分割していくと、作業手順の中身が徐々に明確化していく。で、どこかで気がつく。
「これ、機械で出来るんじゃないの?」
これが機械化の始まり。

機械化はかなり広い範囲で行われている。
ネジを素手ではなくねじ回しで回す、なんていうのも機械化の一種だ。あれは力をネジにいかに効率的に伝え、なおかつそのための機械が簡単に着脱出来るようにするか、かなり熟慮した結果できたものだ。ねじ回しを今度はモーターにつないで、あっという間にねじ込む、というのも機械化だ。機械化された作業を、さらに機械化して便利にしたもの。で、その電動式ねじ回しをロボットアームの先につけて、ビデオアイで位置決めして…とやっていくと、自動車工場とかで働いている組立ロボットになったりする。
そうやって作られた自動車も機械化だ。モノを移動させるのに抱えて運ぶとしんどいが台車にのせると楽になる。抱えて運ぶと荷重を支えるための力をずっと必要とするが、台車だと平地を移動する限り必要なのは初期速度を得るまでの力 + 摩擦分のロスを埋めるための力だけだ。その力の供給もエンジンからの力にしてしまえ、というのの究極の形の1つが自動車になる。

機械化にはいくつものメリットといくつかのデメリットが有る。まずさきにデメリットを。
  1. 機械に何をさせるのか、どうやってさせるのか、決めるまでが一苦労
    人間なら「適当にやっておいて」で済む手順をいちいち考えなくちゃいけない。適当にネゴるとかそういう機能は機械にはない。
    さらに、その手順を機械に実行させるためのメカニズムを考えなくちゃいけない。
  2. 機械を準備するのが、これまた一苦労
    人間なら適当に人を雇って、「これこれこうやって」と言えば適当にやってくれる。完璧じゃないかもしれないが、十分役に立つレベルのものが出てくる。
    機械だとそうは行かない。必要な機械を買ってくるなり組み立てるなりする。設置する場所に荷重制限があったり、十分平らじゃない、などの問題があったらそれも解決しなくちゃいけない。
    さらに設置したからと言って100%うごくと言う保証はない。機械にトラブルはつきものなので、それを解決しなくちゃいけないし、解決出来る人を用意しなくちゃいけない
  3. メンテナンス要員を用意しなくちゃいけない。
    …これは人間でもマネージャーが必要だ、という意味においては似ているかもしれない。が、世話のかかり具合が桁違いだ。
その代わり、こういうメリットがある。
  1. 人間と違って疲れを知らない。なので24時間365日動け、と言っても問題はない。
    もちろん、実際には故障するかもしれないし、メンテナンスも必要なので、そういう動かし方はしてはいけないが。
    この一種の応用として、人間には出来ない作業が出来る、というのもある。「人間には対応出来ないほど時間をかけて、ゆっくりと鍋をかき混ぜる」のような作業をさせることも出来るのだ。人間だと、どうしても「ちゃちゃっとかき混ぜてしばらく放置」を繰返すが、機械なら「ずーーーっとかき混ぜ続ける」事が出来る。
    Webでいろいろなサービスを提供する、というのも基本的にはこのパターンだ。マシンを管理している人は24時間365日働いているわけじゃない。サービスを提供しているマシンが24時間365日働いているわけだ。
  2. 人間よりも高出力/低出力/高精度を必要とする作業も出来る
    プレス機とかは端的にこの例だろう。強い力で一気に均等に金属に力を掛ける。金型を使って力のかかり方を制御してやると、切ったり、曲げたり、伸ばしたり出来る。一度に必要な力が少しでいい場合は、一度に複数のものを同時に作ることが出来る。
    逆に人間の限界を超えて微妙な力加減で何かをなさなくてはいけない場合も、機械のほうが有利だ。というよりこちらも人間には出来ない仕事。
    精密工作の中には人間の限界を超えるものもある。こういうのも結局は機械を経由させることで、人間の荒い行動を精緻な行動に変換してから伝達することで実装出来る。あ、逆のほうが判りやすいか。精緻な情報を、レンズなどを通じて拡大することで人間の目でも判るようにする、なんていうのも機械化の一種だ。
    計算機なんかだと、人間の何億倍もの速度で計算できる。量を必要とする演算は人間は到底叶わない。というか、人間単体だとあまりにもアテにならないので、ソロバンが発明されたぐらい。
  3. 人間がやると健康に被害が出るような事も出来る
    自動車の塗装なんかは、もうロボットに切り替わって久しい。あれは人間がやるとムラが出る上に健康被害もひどいから、ロボットにやらせるに限るわけ。
適切な作業内容を選んでやると、メリットがデメリットを大幅に上回るようになる。そうなると人間は機械を管理するために必要なだけになるので、人間一人当たりの生産性は飛躍的に高まる。

単純作業ほど機械化しやすい。そして機械化した場合、その機械の管理は決して単純作業では収まらない。
単純作業の大量の繰り返し
少量の複雑な管理作業
に置き換える、仕事の変換が行われた、と言い換えても良い。

よく比較優位貿易論とかで、「賃金の安い国に、単純作業が輸出される」とか言っているけれど、機械化を考慮に入れると事はそうそう簡単ではなくなる。準備に必要な時間やコストを吸収出来るなら、単純作業を輸出するよりも、機械化して国内でまかなった方が安い可能性があるのだ。

この辺をやらせたら天下一品なのが、岡野雅行さんだ。リチウムイオン電池のケースを絞りで作ってみせたり、とんでもなく細い注射針…無痛針を作ったりした人。
この人の場合、
  • モノを作る機械を作り、それを運用してモノを作って出荷する
  • モノを作る機械とそのノウハウを、他社に売る
という2段階を行うことで、常に他の人に真似が出来ない(そんな値段じゃ作れないとか、そもそも大量になんか作れないとか、根源的に人の手では作れないとか)事を成し遂げている。

だから岡野さんの所は5人の社員で回る。お金になってくれるもの自体は、社員が作っているのではなく、機械が作っているからだ。社員の仕事は、手法の確立と、機械の作成、管理。

岡野さんとは規模が桁違いで、やっているジャンルも全く違うが、実はやっていることは全く同じ、と言うのが Google。Googleも検索であれGmailであれ、サービスそのものは機械が行っている。Googleの社員がやっているのは、機械の管理と、その機械に何をやらせるか・どうやらせるかの開発、あとお金の管理。Googleと岡野さんの違いは、「機械に機械を管理させる」ための研究をやっているかどうか、ぐらいじゃなかろうか。だからGoogleのサービス規模、営業規模と、社員数は全く比例しない。

しかし、機械化もやはり限度がある。いや、機械に機械の面倒をみさせたとしても、やはり限度が来る。人間が人間を管理するのと同様、管理コストはO(n)よりも速い速度で上昇するのだ。末端のサービスを提供する機械の必要台数は、提供するサービス量 n に対して O(n) で必要になる。これらを管理するための機械を含めると、必要な機械の総量は O(n) よりも速い速度で膨れ上がっていく。
この観点で行くと、Google が他社を圧倒しているのは機械化の力であり、機械の労働力単価が世界中のどこに住んでいる人間の労働力単価よりも安いからだけれども、Googleといえども規模問題を回避したわけではない、と言うことが判る。

岡野雅行さんは経営方針として規模拡大をしない、としている。どちらかというと京都の老舗と同じ戦略だ。

2010年1月8日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -3.1- 分割

分割は Scalable Organization の基本。
そもそも仕事が分割できないなら、「複数の人間で構成された組織」を作ったり、その一員になったりする意味ないし。

分割には大雑把に2種類ある。
同じ作業を二人がそれぞれやる、というのが「負担の分割」。
一連の作業を2つのパートに分けて、前半のパートをAさん、後半のパートをBさんがやる、というのは「機能の分割」。


「負担の分割」はO(n)のスケーラビリティがある。10人きて、10人同じことをすれば(十分なリソースがあれば)、10倍の速度で仕事は仕上がっていく。ただし、10人に何をすればいいのか教えなくちゃいけない。10人の仕事を評価しなくちゃいけない。マネージャーがいる。だから仕事はO(n)だけど、必要な人数はnの倍数よりも早く増えていく。なので、nが大きな数になると苦しい。しかし、nが小さな数字の間は、管理負荷は仕事の速度向上で相殺されることが多い。それはようするに、仕事がハードすぎて効率が落ちていたって事でもあるのだけれど…


近代といわれる時代以降、ほとんどの分割は「機能の分割」。別名「専門化」。

たとえば、鉄鉱石から自動車を作る仕事を考えてみる。これを全部一人でやるとなったら大変だ。鉄を精製することから始めなくちゃいけない。製鉄が終わったら一部をネジとかにして、別のものは鉄板にして、鉄板はさらに切って削って叩いてカタチ整えて…。その多くのステップそれぞれに必要な道具が異なるし、必要な技能も異なる。さらに作業の結果出てきたゴミを毎回片付けて…

仮に必要な技能は完璧にマスターしているとしよう。必要な道具も全部ある。ゴミ掃除もいらない。
でもそれでもそれらを全て使って自動車を作ろうとしたら、作業手順1つ1つに対して、必要な道具を取り出し、片付ける、という作業が必要になる。

ここで…たとえばネジのカタチをした鉄の塊にネジ溝を掘っていく部分を考えよう。バイトという道具を使ってネジを切る。本来なら、必要なバイトを取り出して、ネジを切って、余計な破片捨てて、バイトを片付ける。
が、仮にあなたはこの「ねじ切り専門師」になったとしよう。あなたの仕事はネジのカタチをした鉄の塊にネジ溝を掘ることだけ。もうバイトを取り出すとか、片付けるとかしなくていい。
仮にネジを切るのが全工程の1%かかっていて、車を1台仕上げるのに20日かかったとしよう。ネジを切るのは本来は 1/5 日。これが一日中ネジを切っていられるとなったら、おそらくあなたは一日に5台分のネジよりもはるかに多くのネジを作れることだろう。また、できたネジの品質は遥かに高いものになっているだろう。

「機能の分割」…つまり「専門化」は、「負担の分割」の場合と違って効率の向上を見せる場合がある。これは、「準備」「片付け」などの生産に直接寄与しない部分を大幅に省略出来る可能性があるからだ。逆に言うと、このような生産に直接寄与しない部分が少なくなってくると、生産効率の向上より、生産物を受け渡しするオーバーヘッドの方が大きくなってくる。

乱暴な話、チャーハンを作る作業を次のように、全部別の人に割り当てたとして効率があがるとおもうかい?
  • 中華鍋を加熱する
  • 中華鍋に油を馴染ませる
  • 中華鍋に油をしく
  • 溶き卵を投入する
  • 具材を投入する
  • ご飯を投入する
  • 最初の一振り
  • 次の一振り
絶対無理だわな。ということは、機能の分割もやはり n の大きさに縛りを持った方法に過ぎない、と言うことだ。

でも、nの大きさの範囲内であれば、10人に同じ作業をやってもらうより、作業内容を10個に分割してそれぞれに専門の仕事をやってもらった方が、作業の進み具合は速い。10倍の人数で12~15倍ぐらいにはなる。ほら、マネージャを養う余裕ができた。

「機能の分割」の辛い所は、一連の作業を一旦全て明文化しなくてはいけない事。何をやっているのか理解していないと、分割できない。
「とりあえず先輩の仕事ぶりを見て、それを盗んで」
などという、 自分でも何やってるか判りません 的な、あまっちょろい状態は許されない。

くっきり、すっきり、はっきりと、何をするべきかわかってくると、この先に進める。そう。機械化だ。