2007年4月25日

良い転職先の見つけ方 -6- 利益相反を起こすような2ジャンルへの進出を禁止する

仕事をしていると、ライバル関係にある2社と同時に、あるいは一定期間をおいて、仕事をすることになる場合がある。ハードウェアからシステムインテグレーションまでをこなしている総合会社、例えばNEC, IBM, HP, 富士通などの場合、自社のハードウェアを使ってくれるSIerと、自社のシステムインテグレーション部門がコンペで競合するなどということなどがありえるわけだ。

このような場合にどう対応するかが決まっているかどうか、決まっているとしてそれが妥当かどうか、という点は注意したほうがよい。これは最終的にはその会社の言動を信頼できるかという問題に関ってくる。お客様に対して二枚舌を使うような会社は、社員に対しても二枚以上の舌を使い、さらに責任転嫁までしかねない。


明確な指針が決まっていない会社の場合、そもそもこのような状態を問題視していないことが多い。そして、その場合は A 社の重要な情報…企業機密とまではいかないまでも、基本的な指針などの情報を、ライバルのB社に流すのに問題はない、と考えている場合が多い。これは特に、「調査情報の再利用」をもくろむようなコンサルタント会社や、系列会社に多い。このような会社の場合、調査費を調査時間など人時で請求しており、内容の優劣による値付けをしないことが多い。このため、優秀な調査員が調査すると逆に赤字が出てしまう。そこで同じ情報を何度も売り出そうとするわけだが、その際のコストは結局ドキュメントを書くための時間以上に割り当てられないため、単にジリ貧に陥るだけのほうが多い。このような商売のやり方は、自社社員の価値を理解していない証拠のようなものなので、とっととやめたほうが賢明だ。


さて一方、明確な指針が立っている会社の場合は2種類のパターンに分けられる。
  1. 社内情報流通を制限し、ライバル関係にある2社間の情報が内部で混ざらないようにする
  2. 同一業種に対しては一社にしかサービスを提供しない
1 のパターンはIT業界では、ハードウェアを供給できる総合会社に多い。つまり、各SIerにハードウェアを提供するための専用部隊を作り、そこと自社SIer部隊との情報交流を必要最小限に抑えることで、そのような状態が発生しないようにする、というものだ。

一方、2のパターンは「超」がつくほど高いコンサルテーション会社に多い戦略だ。自社情報がライバル会社に流れない保障もコストのうち、と言わんばかりの値付けがされるため、特に経営コンサルテーションはこの形態が信頼されることが多い。また、2の場合はある一社にサービスを提供してから、どれぐらい時間が経過したらライバル会社にサービスを提供することになるか、明確になっておりそれをお客様にも明示することが多い。


で、ここで質問。1のパターンであると主張している会社があるとしよう。社内SIer部隊と、SIerにハードウェアを供給する部隊、あるいは社外の複数のSIerそれぞれを相手にする部隊間での情報流通が本当に発生していないことをどうやって確認すればよいのだろう?

セキュリティの世界では、Covert Channel という概念がある。通常通信回線として使うことはない現象を利用して情報交換をする、というものだ。例えば、一定時刻毎にIO負荷を調査する。IO負荷が高ければ1、低ければ0とする。で、データを送信する側は所定の時刻に無駄にIOを発生させるわけだ。もちろん、そのままだと他のプロセスのせいでエラーが発生しかねないからECCビットをタップリとる。

このようなものが存在する事を考えると、「情報流通が発生していないと信じるほうがおかしい」という事が判る。いや、お互い情報を流しているつもりがなかったとしても、

「そういえば、xxxxに pSeries を卸している部隊、ここ2,3日帰りが遅いなぁ。逆に xxxx に xSeries を卸している部隊は早く帰るなぁ。
「で、yyyy へハードウェアを供給しているうちの部隊としては、20日後のコンペでyyyy社の競合として xxxx 社がいることは判っているのだが…さて、これはどういう意味だと解釈すればいいかなぁ?」

などと考えるぐらいは当然ありえるわけで。


こう考えると、1の方針の最大の問題点は利益相反と囚人のジレンマが起こり、結果としてビザンチン障害まで併発することにある。

先の例で言うと、yyyy社を相手にしている組織の長としては、xxxx社を相手にしている組織の動向を調べることで yyyy社に利益をもたらし、結果として自分が所属する組織に利益をもたらすことができる。しかし xxxx社からの信頼を失うことで、自社全体の利益は損なわれるかもしれない。厄介なことに、xxxx社が先行き短い会社であるならば、利益と言う観点からするとそれでも構わないかもしれない。

一方で、xxxx社を相手にしている組織が自分達に同じような監視体制を引いていないとは言い切れない。当然相手もこちらと同じジレンマを抱える。

もし、このまま相手と一切情報交換をしないでいたら、囚人のジレンマに陥る。これを回避するには相手と話し合いをするのがよい、と言うことになるが、じゃぁその会議の席で相手が本当のことを言うとどうしていえるだろう? xxxx社を相手にしている組織からすれば、yyyy社を相手にしている自分の組織に不利なうその情報を流し、こちらからは本当の情報(できれば、yyyy社の情報)を取得できればよいに決まっている。と言うことは、当然相手の言っていることは信頼できないわけで…これはビザンチン障害そのものになる。

ビザンチン障害を起こさないためには、全社の方針として xxxx社と yyyy社のどちらを優先するかを考えるか、互いの情報交換ならびに情報推測を Covert Channel のレベルまで禁止する必要がある。これは会社のさらに上層部が決定する必要があるだろう。しかし、Covert Channel が存在しないことはお客様にも、会社の上層部にも証明できない以上、情報交換ならびに情報推測の禁止令はまったく意味を持たない。

じゃぁどちらを優先するべきかを決定する以外手がないわけだが…となるとどちらを?


こう考えると、2のパターンの方がよい事が判る。つまり、xxxx社でも yyyy社でもどちらでもよいが、片方と商売を始めたら、もう一方との商売は止めなくてはいけないのだ。

こうしないと、社内に疑惑を持ち込み、内部闘争の要因を作り、結果として会社全体がビザンチン障害に陥り、結果として官僚主義に陥る。何をやるにも無駄に人手がかかる上に、会議ばかりで何も決まらず、結局正常パスではなく根回しとか、縁故とか、そういう本来あってはならないパスで物事が決まっていく状態…つまり Covert Channel が通信の本体になってしまう、という官僚主義を排除できなくなる。

逆に、2のパターンを取る、と経営側が明確に宣言すれば、社内にビザンチン障害を持ち込める可能性はなくなる。こうして得られた組織判断の速さは、既存の市場が拡大できないために生じるデメリットをはるかに上回る速度で、新規市場を開拓できるようになるだろう。また、既存の市場に対して商品をより多く提供するには、自分たちが提供する商品に関する情報を開示し、商品需給者同士で情報の取り合いが発生しないようにすることだ、ともわかる(*1)。


実は、Covert Channel の中で最も強力なものが、労働組合だ。そして労働組合の有効性は一過性にすぎない。

本来、労働組合と言うのは労働者の権利を守るために存在する。しかし、この目的を達成するために労働者同士を組織化するということは、会社の中に会社の指揮階層構造とは別にもうひとつの指揮階層構造を作ることを意味する。

このような指揮階層構造の上層部にとって、会社から「会社自身に代わって xxx を行って欲しい」と依頼された場合、指揮階層構造の影響力拡大のためにこのような依頼を受けてしまうだろう。しかし、これは結果として会社の指揮系統と労働組合の指揮系統の上層部同士に Covert Channel を開く、という事を意味する。つまり、そのような依頼を受けてしまうような労働組合は、もはや労働組合として機能していないのだ。

経営陣との Covert Channel の発生を最小化するには、労働組合の指揮系統自体を必要なとき以外機能させなければよいのだが、それではいざと言うときに労働組合を構築することからはじめなくてはならず、ほぼ間違いなく問題に対処できるだけのすばやさを持てない、というのが労働組合側の主張になるのだが…。

NTT, NEC, 富士通など、大手の労働組合は皆、この「会社の福利厚生機構の一部代替組織」と化している。このため、労働組合が労働組合ではなく経営陣の出先機関となっており、どのみち労働組合としての独立性を確保できていない。このような状態では、労働組合が「いざというとき」にそもそも動こうとしない危険性が高い。賃金確保のための運動が形骸化するのはこのためだ。つまり、これも一種の利益相反に伴って、組織が本来の機能を失ってしまった例と言える。


本当に重要なのは、会社の規則として労働者の権利を守ることだ。つまり労働組合などが力を持ってしまう段階で、すでにその会社の経営は失格なのだ。よい会社を選ぶ上で、この事実は結構重要なファクターになる。

*1) 商品情報を可能な限り均等に公開したほうがよい、というこの事実を突き詰めると、デバイスドライバーのようなソースコードのオープンソース化が、商売上のデメリットとして信じられている情報の機密化による商売優位性を上回る場合がある事が判るだろう。