2008年2月6日

桃を食べよう・辞書を引こう

そう言っていた人がいた。

明文術という本を読んだ。文章を判りやすくするという視点に立って、どう書くべきか、注意点はどこか、間違いやすいのはどういうパターンかをきちんと書いてある優れた本だ。はっきり言って、ここ3年ぐらいに読んだ「文章の書き方」本の中で No.1 だ。

この本が唯一指摘を忘れているのが辞書を引けという一点だ。

文章が下手な人にはいくつも問題点があるが、その中に
単語の意味を判っていない
と言うのがある。わかりやすく書こうと当人は努力しているつもりなのだろうが、そもそも使っている単語の意味を間違えているのでは、意味は伝わらない。それなのに「忙しい」とかそういう屁理屈をつけて、辞書を引かないのだ。お前が忙しいのは辞書を引かず、間違った意味の単語を間違って使っているせいで、お前がこちらの意図を捻じ曲げるからだと、100億年程 滝壺の底に押し込めて説教してやりたいぐらいだ。

最近こんな事例があった。

お客様の所で障害が起こった。お客様は弊社製品の性だと考えたが、tcpdump等の解析結果とswitch の設定は、お客様側のネットワーク設定の不備を示していた。そこで、条件を変えてテストをする事になった。

弊社側の技術者は
再現性のあるテストを行ってください
と繰り返し書いてきた。しかし、弊社の担当官がこれを
テストをして事象を再現させてください
と勝手に書き直していた。判る人は判るだろうが、前者と後者は言っている事が全然違う。

前者はテスト結果として障害が起こった条件と起こらなかった条件を見比べた場合に、何が主要な制御要因か判るようにしてくれ、と言う意味だ。条件の比較によって弊社製品に問題が無い事が示せるならばそれはそれでよい。逆に弊社製品に問題があると判った場合は再現テストを弊社側で行い、製品内部の何が原因なのか突き止めて障害が起こらないようにする方法を見つける事もできる。そのためにも、条件をきちんと記録し、かつその条件をなんどでもリプレイ可能なものにしてくれ、と言っているわけだ。

しかし、後者は「事象が起これば良い」だけだ。なにが原因なのか分析できる必要は無いし、条件を同時に複数変えてもかまわない。これでは、ネットワークの設定が悪かったのか、弊社製品が悪かったのかすら区別できない。このような条件で実験を繰り返しても、ただ時間を無駄に過ごすだけだし、そのための労力はすべてゴミにしかならない。参考情報が無いに等しいからだ。

「再現する」事と「再現性がある」事の違いを理解していないお客様担当が、後者を前者と勘違いして文章を書き換えた事によって、お客様がどれだけの被害をこうむったか…考えるだけでぞっとする。

意味が一意に決まるように文章を書けたとしても、それだけでは明文にはならない。オリジナルの文章があるならば、その文章が何を言っているのかをきちんと理解できなくてはいけないし、使われている単語についても自分勝手な解釈ではなく国語辞典に基づいた意味で解釈し、また記述しなくてはいけない。私文ならばともかく、お客様相手の、技術的な文章に関しては、用語が示す概念の共有を必要とするので
言葉は変化するものだ
などという寝言も却下だ。そういう寝言は正しい意味をきちんと説明できるようになってから言っていただきたい。

国語辞典では私は広辞苑をお勧めする。広辞苑は不正確だ、とかいろいろ言う人がいるが、この場合は全然構わない。そもそも国語辞典のお勧めを聞いている段階がナンセンスだからだ。

国語辞典について「これ」という意見を持っている人は、私に「お勧め」を尋ねたりはしない。お勧めを尋ねるのは、国語辞典をろくに引いた事がない人だ。そういう人は、まず広辞苑の厚みにビビッてもらう必要がある。ここで岩波国語辞典などのより薄くて軽い辞典に移動したら、その段階で論外。この人は内容ではなく「軽さ」と「薄さ」で辞典を選んだからだ。

国語辞典は「自分が知らない言葉」の意味を調べるためにある。あなたがどんな言葉を知らないのか、どうして国語辞典を引く前に判ると言うのか?? そう考えると「日常よく使う xxxx 語を厳選」など…余計なお世話である。その「厳選からもれた」単語が引きたかったらどうしろというのだ?? 2冊目、3冊目としてならばともかく、1冊目の国語辞典は量こそすべてである。この点において広辞苑は合格だ。無駄に分厚く、無駄に単語量が多い。これにビビッてはならないのだ。

あとは、入手しやすさが決定要因だ。広辞苑はほとんどすべての本屋で手に入れる事ができる。ある一軒で入手できなくても3軒以内で確実に手に入る。普段使わない単語の、枝葉末節な部分に間違いがあるなど、入手のしやすさに比べたら誤差だ。

一旦、辞典を手に入れたら、自分が知っていると思っている単語でも引いてみよう。意外と正しい意味を理解していなかった事に気がつくはずだ。その上で、この本に従って分祖hを書いてみよう。時間が掛かるかもしれないから、まずは短いものからで構わない。案外、簡単に書ける上に、その文書を使った仕事はそれまでのような突っかかりが無く、すいすいと進む事に気がつくはずだ。

それは、仕事がなかなか進まないのはあなたの文章が悪かった証拠、である。

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