2010年10月21日

【DS】A列車で行こうDS -1- 「青葉リゾート区」「いばらの道」 -1-

さて、では「いばらの道」…普通に言う『難しい』だ。地図は相変わらず「青葉リゾート区」。
いや、だってさ。地図を思い出すの大変じゃないですか、このゲーム。一度1つの地図をクリアしたら、同じ地図を難易度を変えて繰り返し攻略するのがコツですよ。どう考えても。

というわけで「いばらの道」ですが、クリア条件は「標準」と同じ。
  1. ご存知「苗羽駅」。あそこの1日あたりの利用者を500人以上にする。これをクリアするまで駅設定のみ不可。
  2. 6年目の3月31日までに、人口を5万人以上にし、総資産を1000億円以上にする。
で、相変わらず1の条件はど楽勝。
問題は2なのだが、資本金が 500億円あるので、資産的には400億円ぐらいにはなるはず。株式公開すれば700億円手に入るので、合計で1100億円。やはり株式公開すれば、お金はどうとでもなる。どちらかというと「アドバイス無し」が痛いか?

最初に張った線路はこう。相変わらずいきなりループ路線。

線路だけ切りだしても同じ


いきなり「買取」⇒「撤去」攻撃。地形的には2箇所。でもビル的には4つだったか5つだったか(ちゃんと覚えていない)。


2つめのなんか、公園がどうしても避けられないので、わざわざ買い取るべき不動産を最小にするために線路をねじ曲げてる。強欲ですなぁ…

で、このように電車を配置。進行方向は左方向:


なんとなく財政的にまだどうにかなりそうだったので、早い目にもう2台客車を追加投入:


一台あたりの乗客数を見ると:

279人。なので2台通せば苗羽駅を通る客は500人を超える。何割降りるにせよ、客車4セットがかりなら間違いない…当たり前のように最初の条件はクリア。

で、速攻で貨物車の開発に取り掛かる:

連結力は1だけアップ。こうすると豆腐が4つ同時に運べる…というかそれ以上運ぼうとすると途中で余る。これ以下だとループが長くなるに従って不足している地域が広がりすぎて開発が進まない…で、すべてを省エネに注ぎ込む。

駅は最初のループの段階では当たり障りなく(なにそれ)。1年半ぐらい経由したところで、左下のブロックに手を伸ばす。つーかその順序でないとお金が足りない。



正直、この段階ではまだ島の左端をどうやって開発するのか考えていない。クリアできるかどうか自信がないんだもの。特に人口。

というわけで、ゲーム開始からほぼ2年後:

「マンションB」を建てまくったおかげで人口は 3.5万人。つーか2年かけて1万人増加ですか。6年かけて3万人…大本が2.5万人ぐらいだから…ギリギリだなぁ。しかも、もうそろそろ余剰資金尽きかけてるし、黒字にしなくちゃいけないし…

困りながらマンションを建ててはあがりの悪い所を即座に売り…を繰り返す。ゲーム開始から3年後:

!!!!! おおぉぉぉおおうっっ、4万人突破。よし、これで3年間であと1万人増やせばよい。少し余裕ができた。

さらに半年後:

えっへんっ!! この段階で2年連続黒字だ。

…というわけで、めでたくこのマップもクリアしましたとさ:





ちなみに。その後の写真は無いが…

ちゃんと島の左端もきっちり上まで開発しました。今回は地下鉄を駆使して走らせました。
ちょっと知らなかったのは、地下街。勝手に3方向に発展するのなー。そうと知ってればもう少し地下鉄駅の方向とか気にしたのに。山の真下だけ繁盛させるとか…

この地下街、実は最強。取り壊せない、上にビル建てられない。勝手に伸びる。つながる。
そういうのは先に言って欲しい。もっと真面目にB2Fの使い道を考えたのに…
つーかB2FもB2Fで駅作れないのはどうにかならんのかと…

寂しいのは、地下街も地下鉄も、全景を知る方法がない、ということ。全体をパッと見渡す図がないので、載せられないのでした…

ま、とにかく。
これにて、「青葉リゾート区」は攻略完了。

2010年10月16日

【DS】A列車で行こうDS -1- 「青葉リゾート区」「標準」 -2-

1回失敗して気づいた事、判った事は次の通り:
  1. 条件をクリアするまでは、人口の伸びが悪い。これはマンションのような「住む場所」が無いからで、実際人口はマンションを建てるたびに伸びた。つまり究極的には、必要な数だけマンションを建てればよい。別の言い方をすると、「勝手にマンションを建ててくれない」(あるいは、マンションを建てる率が悪い)のはクリア条件を満たすまでの制約の一つだと思われる。
  2. マンションなどの子会社の収入は著しく悪い。経営方針を「経費節約」にしてもギリッギリ。ちょっとでも気をぬくと赤字になる。これは高層マンションほど酷い。状況的にはあまりにも酷いので、おそらく「クリア条件」を満たすまで、なんらかの制約がかかっていると思われる。
  3. 鉄道の収益はよい。そもそもがループ自体がかなり短くて済むのに人口は決して少なくない。なので、線路をループにしたうえで極限まで列車を増やす事で収益を得る事ができる。
  4. もともとの資本金は700億円。株式公開をすればさらに700億円が資本金として手に入る。よほど酷い使い方をしなければ、資本金≒資産額になるので、株式公開をすれば資産額が1400億円になるに違いない。あとは、どうやって余剰金を10億円分作るか
まぁようするに。人口の伸びの悪さに驚いてしまい、高層マンションを建てて乱暴な運営をしたら子会社が赤字化しまくってしまい、2年連続の黒字と言う条件を満たせず、株式公開に失敗してゲームオーバー … だったわけですよ。

なので、2回目の戦略は次のようにしました。
  1. まず、線路をループ状に作る
  2. 可能な限り「3両編成の」電車を多く走らせる
  3. 貨物を開発、1車両だけループの中を巡回させる。積み下ろしは工場のそばは「全部積む」それ以外は「全部降ろす」
  4. で、「鉄道にゆとりができてから」、マンションBタイプを建てる。このタイプが収容人数と、建築にかかる日数と、消費する土地の面積のバランスがよい。
  5. マンションはできたその日に経営方針を「経費節約」にする。建てる場所は駅前であれば深く考えない。2年経っても黒字にならなければ売却。
  6. ギリギリ黒字経営を目指す。で、2年連続で黒字経営に成功したら、余剰金を10億円貯めて、株式公開
で、結局。先に人口が5万人を突破してくれたおかげで、6がクリアできた瞬間に、イベントはクリア。
と同時に、マンション運営が一挙に改善した。やはりリミッターが掛かっていたらしい。

人口増加は次の通り(6年目までがまずはリミッターなのでそこまでをまず見て欲しい)
見ての通り、3年目と4年目の間にものすごい成長が発生している。4年目の初めに5万人を突破し、ほぼ同じ頃に株式公開したため、ロックが解除されたようだ。
同じようなことは産業推移図からも判る。3年目までは私もかなり努力してマンションを建てていたが「住宅」はあまり伸びていない。が、ロックが解除された途端一気に増えている。一旦爆発的に増えたあとは、むしろ減っている。住宅が減ったのに人口が落ちないのは、住宅がマンション等の大規模住宅に入れ替わったからだろう。

ともあれ。とりあえずクリアできたので、その続きを。これが7年目の地図だ。最大の違いは島の一番下、従来ど田舎だった部分が開発されているところにある。
これは地図をもっと大きくすると、理由がわかる。
苗羽駅から線路が山に突っ込んで、そのまま反対側から出てきているのが見えるだろうか?そう。地下鉄技術を開発して、山に穴をあけたのだ。というか、右のループの周りはすでにかなり開発が進んでしまっており、うかつに穴を空けられなかった(出費がすごくかさむ)のと、トンネルと地下鉄を作ってみたかった、というのがこのデザインの理由だ。
これこのとおり。トンネルのあとは地下鉄である。
で、丁度島の右下の部分、地上でもループしている部分と一部重なるように、地下鉄を掘った。おかげで、初めて見ました。地下街。勝手に成長するんですね。それもかなり不規則かつ「オメーそりゃ不便だろう」と言いたくなるような形に。

なるほど。と、いろいろ操作方法とかを学習したところで、次も同じ地図行ってみよう。

2010年10月15日

【DS】A列車で行こうDS -1- 「青葉リゾート区」「標準」 -1-

一通りの操作ができるようになったので、これで本格的にプレイできる。というわけで、一番最初のマップ、「青葉リゾート区」の「やさしい」を…あれ? 操作パネルが元に戻っている…そうか。「やさしい」だと一番最初に戻っちゃうんだな。じゃぁ、これではなく、「標準」で行ってみよう。

立ち上がりの地図は一緒。
で、今回は大きく2つのミッションに分かれている。
  1. ご存知「苗羽駅」。あそこの1日あたりの利用者を500人以上にする。これをクリアするまで駅設定のみ不可。
  2. 6年目の3月31日までに、人口を5万人以上にし、総資産を1000億円以上にする。
1の条件をクリアするのはとても簡単。ただし、2の邪魔にならないように注意深く実施しないと酷い目にあう。


というわけで、こんな風に線路を引いた(写真自体は1の条件をクリア後)。
「苗羽駅」(この写真だと左下)へのアプローチはわざと反対側から。これ、逆にアプローチすると写真左側からぐるっと回るコースがギリギリ引けない。
丁度 島の中央にある駅…何駅なんだろう、早々に消したので覚えていない…はガン無視。だってこいつ山に近すぎて反対側から線路引けないんだもの。
島の右上、マンションとかがいくつか建っていてそのままだと袋小路。が、環状線のために「買収」&「撤去」!! 大雑把に3件分ぐらい。で強引に線路を引いた。

こうすると、最初から持っている電車を2台とも一気に動かせる。これを時計回りに、ほぼ隣接した状態で動かす。一瞬で 1 の条件がクリアできる。

1の条件をクリアしたら、駅の増設ができる。ので、駅を増設する。すでに工場がいくつかあるので、それらに対応するように1つづつ。あと、地図上で赤色の領域に1つづつ(工場とダブっている場合は建てない)。最後に地図右下の空間に合計2つ。

各駅に停車する時間は10分に調整。休みなく動かす。何しろ、この段階では人口は2万人ちょいなのだ。これを5万人に…それも大雑把に5年以内にしなくちゃいけない(1年ぐらい余裕がないとやばいだろう?)。車両を休ませている暇はない。同時に、客車を3両編成でつくっては間に走らせ…を繰り返す。
最終的には15セット走らせた。
(順に「あ」「い」「う」…という名前をつけていって、「そ」まで行ったので間違いない)

貨物車両の開発を並列して行う。車両的には3両つなげればよい。これだと資材が4つ運べる。残りは省エネに振り向ける。客車が低速なのに、貨物が高速なのは意味がない。開発ができたら、1セットだけ動かす。各工場最寄の駅では「全部積む」、それ以外では「全部降ろす」

最後に、各駅の周辺に適当に「1マス資材置き場」を散らす。どこかに集めて3x3とかするより、この方がカバー領域が広い。無駄に積んである資材は使い切るまでは放置。資材置き場だけになったら撤去して、1マスだけ残す。

ここまではほぼ共通なのだが、この面、実は2回やっている。

そう。1度目は総資産1000億円の条件を満たせずに Game Over になってしまったのだ。人口がなかなか伸びなかったので総資産の方に意識が回らなかったのが原因。というのは、子会社で「高層マンション」ばかり建ててしまい…

ここから先は、全条件をクリアした2回目について、どうやったのか書くことにする。

2010年10月11日

【DS】A列車で行こうDS -1- 「青葉経済開発区」「やさしい」 -4-

/.J の日記の日記の続き。写真がないと状況が説明できないゲームにとうとう業を煮やしてこちらに。
とは言っても、「青葉経済開発区」の「やさしい」レベルに関してはもう、何がどうということはなく…
  1. もう子会社はすでに100社。これ以上作れません。効率の悪いところを切り捨てて新しく作るのにも限界が。
  2. 電車の車両はすでに50両。つまりこれ以上は知らせることはできません。
  3. 実はバス・トラック類があまり好きではないので、道路がものすごく効率の悪いことに。なのでこれ以上車両を走らせることもできない。
  4. 開発できる土地もほとんど残っていません。
なので、もうこれぐらいで終わりかなーと。

とりあえず、こんな感じの現状:
見ての通り、未開発の部分が殆ど無い。そして白い線を追い回すと判るが、全体で1つの巨大なループ線になっている。最初は右上のDを横にしたような部分と、半島の右半分のループから始まったのだが、半島の右半分を伸ばして、伸ばして、伸ばして…こうなった。


会社の状況的にはもうイッパイイッパイ。子会社と列車はこれ以上動かせない。というか列車なんか運行スケジュールが一発で全範囲を指定できない有様…。まぁまぁと言えましょう。


公共が常にぱっつんぱっつん。これは超高層マンションBを建てる度に、その周囲に2x2の公園だの寺社だのを建てまくるから。そうすると超高層マンションが比較的速く埋まって黒字になる。と同時に人口がそこに集中してくれる。
運輸はどうやっても人が溢れ返るのでどうしようもない。



住宅の供給が微妙に足りない気がするが、実を言うとこれ以上どうしろと…という気もしている。。なにかいい手があるんだろうか…

「やさしい」だからだろうか。人口が減ることは一度もなかった。まぁ、反乱が起きなくてなにより(そんな機能はない)。

会社格付けAAAもクリアしたし。こんなもんかな。

2010年9月18日

札幌へ行ってきた -2-

明けて二日目。二日酔い。当たり前ですな。

視界がぼけています…
いえ、頭がぼけててフォーカスが合っているかどうかの
チェックを怠っただけです。

とりあえず、札幌駅のコインロッカーに荷物をおいて、再び南口から出ると…

雨~~~
It's a rainy blue, it's a rainy blue
ゆれる心 ぬらす涙

はっ、そうじゃなくて。


こんな感じのところに行ってみました。

えぇ、ここ。
有名な「北海道庁旧本庁舎 (赤れんが庁舎)
しかし、二日酔いの頭にはよく判らず

南側の池では、蓮が咲いていました。
うーん。とはいえ、手持ちのカメラではめいっぱい寄ってもこのレベル。
ちっ、もう一グレード上のカメラも持ってくればよかった。
一泊二日の荷物とは思えない重さになったかもしれないが…

季節的にはもう外れなので、ほとんどの花は泥中に沈んだあとなのでしょう。


で、今度は南東の方に移動。
それにしても道が広い。車線も広いが、
車線の外が広い = 路肩がゆったりととられている。
運転しやすそうだ


さて、次の観光はここ。
そう。時計台。

なんというか…さすがは
日本一残念な名所
と言われるだけのことはある。
何がどうすごいのやらさっぱり。

こう…パッと見ても微妙に花がないというかなんというか…
むしろ、観光中のお姉さんのほうが花があるというか。

あぁ、そういえば。お馬さんがいました。
これは何度か出会って、そのたびに撮影をトライした中で最もできが良かったもの。
つーか、それ以外はボケてたり、断ち切れてたり…
orz


そうこうしているうちに、酒が抜けてきたのでご飯。
ゆで卵に店名が書いてあります。で、Google Map で引けばどこら辺にあるのかは判るというもの。

んー、ラーメン自体の味は…普通。
コレといってすげぇ、というわけではありません。
ただ、餃子のタレに
味噌ダレ
があるのを発見して慌てて、餃子を追加。
こちらは、私の好みでした。

で、あとは適当にブラブラしてから帰りましたとさ。

つーか帰りの新千歳空港がひどい状態だったのだが、
ひどすぎてカメラを向ける気になれず。

あと、セキュリティーを通ると、
その先にはろくにご飯が食べられる場所がない。
ちょっと想定外。
結局その日は晩ご飯を食べ損ないましたとさ。

札幌へ行ってきた -1-

出張です。札幌まで行ってきました。初北海道です。ヒャッホ~~~

行きはAirDoとの共同運航便です。

すでに遅れが確定しています orz


着きました。

あ、いえ。この機体に乗ったのではありません。

でも見てください。飛行機から降りたら、いきなり地平線攻撃です。
つーか、着陸段階で外を見ると、まーーーーーーーーっすぐな道路がゴロゴロと。鉄道もまーーーーーーっすぐ。
うおーーー、どこのオレゴン州じゃ
と思いましたよ。


おっと。証拠、証拠。
新千歳空港から、札幌駅までの切符です。

で、札幌駅を降りて北口から出たら、これです。札幌、恐るべし。
もしかして、お笑いの街として大阪と覇を争うつもりか?!

お仕事終了。
翼よ、これがすすきのの灯だ。
とりあえず、お仕事先の方に一席設けていただきました。
ありがとうございました。

北海道、旨すぎです。
素晴らしすぐる。秋葉原と神保町を北海道に移植することを、真剣に考えるべきだな、これは。
そう。国連事業として。
とにかくそのようにして、17日は過ぎていったのでした…。正確には18日にかかってましたが。

2010年8月1日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -8- まとめ

というわけで、まとめ。

ようするに、新人じゃなくなっても意識しなくちゃいけないことが CS と AT であることに変わりはない。
ただ、より幅広い範囲に渡る権限を持ち、その分収益に対しても部下に対しても責任を持たなくちゃいけないので Customer Satisfaction 側がよりヘビーになる。しかもその中から利益を得なくちゃいけない。

利益は売上からコストを引いたもの。なのでコストが増大する組織拡大は極力抑えなくちゃいけない。そのためには Automation が大事になる。逆にいうと Automation として何が出来るのか、先に手持ちの武器を確認しなくちゃいけない。また、組織を運営する場合も、その人達がほうっておくと何をしでかすのかをきちんと見抜かなくちゃいけない。ルールを多用した運用はほぼ確実に監視のためのコストが莫大になり失敗する。可能な限り司法と行政の等価交換則を利用して、放っておいても目的通りになる、ことを目指さなくちゃいけない。

売上を上げるには、人間が持つ限定合理性から来る壁をいくつも突破しなくちゃいけない。取引コスト、プリンシパル・エージェント問題の2つをちゃんとおさえなくちゃいけない。
また、組織を運営する上でどうしても発生する問題については、所有権問題をちゃんと意識しなくちゃいけない。

最後にターゲットとするべきマーケットは上質/手軽さのどちらにするのか、I18NとL10Nのどちらにフォーカスするのか、これが重要になる。どちらにフォーカスを当ててもよいが、徹底するのが重要になる。中間には何も無い。


まーね。
言うは易しなのはその通りだけどね
でも、この程度すら
ほとんどの人は知らない
そしてこの程度で解決することすら
解決できないでいるんだから

2010年7月10日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -7- I18N/L10N

I18N: Internationalization (国際化)
L10N: Localization (地域化)

グローバライゼーション(Globalization/G11N) が叫ばれて久しい。世界は平らだとかいう本も出てるよね。
でも、本当にそうなんだろうか? 日本の市場と、韓国の市場と、アメリカの市場と、ポルトガルの市場と、ロシアの市場と、南アフリカの市場は同じ性質を持っていて、単にお金持ち度が違うだけなんだろうか?
言葉の違いもある。うん、それもあるよね。でもそれだけ? もっと根本的に 同じに扱っちゃ駄目 なポイントがあったりしないだろうか。

「もちろんあるとも。それについて書かれた本も」

そう。国や地方ごとに条件は違う。食生活が違うのに冷蔵庫に求める機能が同じなわけがない。

例えば日本とアメリカでは、製品に対する品質要求がぜんぜん違う。
アメリカでは、製品が壊れるのは大きな問題ではない。製品が壊れたときに直せないのが問題だ。ものを買った場所から自宅までの距離は、時には車で2時間以上もかかる(それも100miles/hour=161km/hourで)。壊れたときに修理にだしてから直って帰ってくるまでの時間も長いし、その間の代替物がない事が問題だ。だから、壊れたことそのものよりも、すぐ直せないことを問題視する。自分で直せるなら、あるいはリセットボタンを押せばそれで済むなら、問題ではないのだ。
逆に日本では、製品が壊れることを問題視する。
一つには大昔、アメリカで「日本製」が「安かろう=悪かろう」の代名詞としてさんざん叩かれた頃のトラウマが未だに残っている事があげられる。日本製品を日本に送り返して直していたのでは、数日では直らない。かといって日本製品を普通のアメリカ人が大雑把に叩けば、トドメを刺すだけだ。だから、日本製の壊れる = それっきりを意味したのだ。だから壊れるのは悪。
もうひとつは、日本という国の地理的な条件がある。日本は古典的に「街の電気屋さん」のように住んでいる場所に密着した形で小売店が存在する。何かが故障した場合、修理はもちろん、取替え、修理から返ってくるまでの間のスペアの手配等、全てこの「密着した小売店」が何とかしてくれる。だから、修理して再び使えるようになるのは当たり前。ただし、この「密着した小売店」がサポートのために支払わなくてはいけないコストがバカにならない。小さなエリアで小規模でしか売れないのに、売った後に高いコストを払わされるのではたまったものではない。だから壊れちゃいけない。

だから、大きく見ると世界中どこでも売れるように感じる商品も、その地域に持って行ってみるとニーズが微妙に違う。それぞれに合わせた作り込みをしないと、その地域で同じようなものを作り、売っているメーカーに勝てない。すると、グローバライゼーションはコストがかかるばかりで、全然売上に貢献してくれない。ゲマワットさんの本には「商品の売上はHQからの距離に反比例する」例をあげているぐらいだ。

でも、全部が全部そうじゃない。例えば Intel の CPU。世界中どこに行っても同じものだよね。アフリカ版と日本版とアメリカ版で消費電力が違ったり、演算能力が違ったりはしない。こういうパーツ…とくにすでにデファクト・スタンダード化が済んでいる製品は世界中どこへ行っても同じだ。
でもデスクトップPCになると日本やアジアでは小さめのデスクトップの売れ行きが良い。アメリカではタワーと呼ばれるデカいやつの方が売れてる。ノートPCも、アジアではキーの小さい奴が売れるが、アメリカではキーの小さい奴はあまり売れない。ところが、たまに例外もあって、ネットブックはどこでも売れた。ただし、OSはアメリカだとLinuxでよかったのが、日本では Windows を入れなくちゃいけなかった。

この違いはどこから来るんだろう? どうやって回避すればいいんだろう?
多分、同じことは「地方」単位でもあるはずだ。北海道と沖縄ではニーズが違うだろう。愛媛と新潟も違うはずだ。山形と東京だって違うだろう。逆に東京と神奈川、千葉辺りはニーズが似ているに違いない。
アイダホ州とニューヨーク州は違うニーズを持っているだろう。ニュージャージー州とカリフォルニア州も違うに違いない。ニューメキシコ州のように暑い所と、アラスカ州のように寒いところも違う。
どうやってそれぞれに合わせればいい? それには何を気にしてデザインすればいい??



Customer Satisfaction に関する最後の項目は I18N/L10N だ。
ただし、ここでいう I18N/L10N は単に「国単位」とか「文化単位」に限定しない。究極的には「個人単位」とか「購買する度」で微妙に変化するニーズや、それに対応する事を意識する、という話。
これは Focus の話だ。ただし、Focus は「一人のお客様に対して」の話だった。

これが Focus の話と判れば、 同じ と分類されるものであっても、世界中の地域ごとにエンドユーザーのニーズは微妙に異なることも判るだろう。このため、完全に1種類だけの製品を作って、それを世界中に販売展開すれば全顧客のニーズを満足できる…とした Globalization は幻想に過ぎない。

この問題を回避する最終的な戦略はただ1つ。Internationalization (I18N) / Localization (L10N) を組み合わせる以外、手はない。ようするに製品の大枠を I18N で定め、最終的な地域単位/顧客単位でのチューニングを L10N で行う。
  • L10Nの範囲が本当の意味で「地域」なのか、「個別顧客」なのか?
  • どれぐらいをI18Nで共通化し、どのぐらいを L10N で個別対応にするのか?
  • どこを I18Nで共通化するのか? (部品なのか、材料なのか、それとも加工技術/ノウハウ/職人の技と言われるものなのか?) どこを L10Nにするのか? (組み立てた製品なのか、皮から切りだして製品を作る部分なのか、オーダーメイドなのか)
これらを組み合わせ、コスト/商品価格と顧客満足のバランスするポイントを見つける。これは Focus がどこにあったお客様がどれぐらいの数 存在するのか、という問題だ。Focus の逆問題だね。



I18Nの部分を大きく取り、L10Nの部分を小さく取る。部品以上のものを提供しない。世界中で同じものを売る…という戦略で成功している好例が Intel の CPU x86 シリーズだろう。世界中どこでも同じ製品しか供給しないが、それが許されるのは「部品」だからだ。国ごとに好みの色をパッケージングに塗る、なんぞというサービスは一切しない。そのようなエンドユーザーの好みに合わせたチューニングは、CPUを利用した製品を作る側の自由であり、チューニングに伴うリスクテイクも、それによる利益幅の増大も、CPUを使って最終製品を作る側の問題だ。Intelはあくまでも部品を提供する所に留まることで、スケールメリットを得る。

逆に I18N の部分はほぼ外部から部品を買取り、L10Nだけで勝負する方法もある。これはサービス業の多くがそうだ。オーダーメイドのスーツを売る店は、布地まで自前で作ったりはしない。あくまでもそれをどう裁断するか、どう縫い合わせるかを、顧客のニーズ単位で実装することで高い満足を売っている。
喫茶店もそうだな。顧客の細かい要求(もしあれば、だが)に答えたものを提供し、時間と空間を提供することで、高い満足を売っている。同じようなパターンに床屋も入れられるだろう。

L10Nが高いものは、地域密着性が高い。たとえばあなたが東京都に住んでいるとして、沖縄の床屋が1000円だとしてもわざわざ髪を切りに沖縄に行く人はそうそう多くはないだろう。でもQBハウスのように1000円でカットしてくれる床屋ならば行くかもしれない。移動コストのようにサービスを受けるまでの潜在コストが高い場合、市場サイズがグローバルにならない。その場合、その狭い地域にチューンしたサービスが競争基準になる。時にはそれがとんでもないガラパゴスなサービスへと進化してしまう場合もある。


別の言い方をしよう。もしあなたが売れる商品を作りたいと思ったら、世界中向けには「部品」を作るのがよい、ということだ。例えば冷蔵庫について考えているなら、ヒートポンプとか断熱材とか。で、各地域でその部品を組み立てて、その地域のニーズに合致した冷蔵庫に仕立て上げる。

「部品」と言うと語弊があるかもしれないな。たとえば車。車は世界中どこへ売る場合でも「ほとんど」違わない。ただし、右ハンドル・左ハンドルのようにオプションが変更できる。販売国の法律に合わせてハンドルをどちら側につけるのかはカスタマイズ可能なわけだ。この場合 L10N のために部品を交換しているだけで車としてはほとんど完成品なのだが、こういう場合も「部品」と考えよう。
実際、車は想像以上に多くのカスタマイズポイントを持っている。例えばウィンドウウォッシャー液。日本ではウォッシャー液のメーターなんか運転席についてない。ところがアメリカにはある。日本は法定点検がやかましいので、定期的に販売店や車検屋にチェックをお願いする。するとウォッシャー液とかはちゃんと補充してくれる。アメリカはそんなものはないので「空になったらユーザーが補充する」事になる。が、ウォッシャー液なんてめったに気にしない。このため、運転席にはウォッシャー液のメーターがあるのだ。


例えば…そうだな。Storageとか。この場合国によって何が監視できるべきか、どうなったらどう報告するべきか、違う。例えばアメリカで多いのは、HDD を Active の他にスペア Standby を用意して、Standby に切り替わったら、その次の定例メンテナンスの時に新しくパーツを補充する。
しかし日本だと
「Standby がもうないぞ、どうしてくれるんだ、早くパーツを補充しろ、壊れた原因をさぐれっ」
と大騒ぎになる。いや、HDDは壊れるもんですってば。こういう客が多いので、日本の場合は、Active/Standby/Standby 構成にするのがよい。で、Active が壊れたら Standby1号 に切り替える。で次の定例でパーツ補充するが、Standby2号がまだいるのでお客様も騒がない、と言うわけ。こういう多重 Standby ができる構造にできるよう、柔軟なカスタマイズが出来るようにできるべきなのだ。I18Nの段階ではこのように、国ごとのお客様特徴に適用できるようにカスタマイズしやすく作っておく。で、各国で L10N を施すときに、きっちり作り込む。

こう考えると判るだろうが、I18N 用の開発部隊の他に、L10N 用の開発部隊を各国に用意するべきなのだ…いや、「国」単位じゃなく「文化」単位で構わないが。逆に言うと「文化」単位での開発部隊を持たないメーカーというのは I18N ではなく G11N と称して、どこか一国(たいていはアメリカとかヨーロッパ)にチューンしてしまっているため、他の国に売るのはいいがその後、その国のサポート部隊が悲鳴をあげることになる。こういうメーカーやベンダーの製品は避けたほうが無難だ。


「上質」と「手軽さ」という分類の仕方もある。これはケビン・メイニーが「トレードオフ」という本の中で紹介している分類の仕方だ。



上質であるとは、お客様一人ひとりに対するチューニングのレベルが高く、快適さが高い。値段も高いがそれでもこの商品を選ぶ、という事自体が一種のステータスにつながる(「トレードオフ」ではこれを「オーラ」と呼んでいる。ブランド力の一種だ)。L10Nの割合が高く、その分お客様ひとりひとりのニーズにきっちり合わせることができる。
この場合 L10N として提供している商品そのものが、買ったお客様のキャラクター(なにに強いのか)を宣伝している。技術力が高い(iPadとか iPhoneとか)、選美眼が高い(ティファニー)、品質に拘る(グッチ)…そしてもちろん、これらに共通して「金持ち」というのもある。お客様はそれらを使うことで、自分のアイデンティティを宣伝しても居るわけだ。

一方手軽であるとは、お客様ひとりひとりに対するチューニングは殆ど行わない。商品がお客様に合わせるのではない。お客様が商品に合わせるのだ。あるいは、「商品をお客様に合わせるための商品」というものが別にあって、値段が高いほど利便性が高くなる。しかし、その商品が提供する機能は便利すぎて、それがなかった世界など考えられない。電子レンジ、冷蔵庫、ガスコンロ、室内照明、携帯電話、鍋、テレビ、ラジオ、インターネット、Windows、マクドナルド…どれ一つとしてあなたのために造られ、あなた用にチューンされたものは存在しないが、これらなしの生活はもはや考えられない。
このような商品は I18N の部分がその商品の性質のほとんどを決定する。L10N の部分…電源を100Vにするか120Vにするか220Vに対応させるか…表示する文字を日本語にするか英語にするか韓国語にするか…などの部分は確かに違いとして存在するし、そこに掛かっているコストは決して安くはないかもしれないが、そこに高い付加価値を見出してくれるお客様はほとんどいない。Windows7 の英語版と日本語版では明らかに日本語版の方がメッセージ等の翻訳コストがかかっているが、だからといって日本語版の方が20%高い値段で売っている…などとなったら、日本の顧客は買ってくれないだろう。これは、Windows7が「手軽さ」を…ひいては「どこにでもある」事を目標として作られた商品であることを示している。ビル・ゲイツが立てた Microsoft の目標「PC everywhere, MS product everywhere」は変わっていないのだ。

ケビン・メイニーによると、「上質」と「手軽さ」は相反する性質を持つという。「上質」という性質は「選民性をもつ」という意味でもある。「手軽さ」は「選民性を持たない」という意味だ。誰でも手に入れられるものは、それを使っていても「使っている人のアイデンティティ」など宣伝してくれない。故に「手軽さ」と「上質さ」を同時に目指そうとするとどちらつかずになり、「上質」を選ぶ人からは捨てられ、「手軽さ」を選ぶ人からは「高すぎる」とそっぽを向かれる。スターバックスがまさにその状態に陥った。ティファニーもそれに近い状態に陥り、慌てて戦略を変更している(だからティファニーのネックレスを持っているティーンエイジャーはもういないでしょう?)。
しかし、多くの企業がここを間違える。それは(AOL元副社長の)テッド・レオンシスが表現したように、「上質」と「手軽さ」を「愛される」と「必要とされる」のように表現を置き換えて理解してしまうからだ。確かに「上質」なものは「愛される」と表現するしか無いぐらい、お客様から多くのリソースを投資してもらえる。「手軽」なものは「必要とされる」と表現するしか無いぐらい、誰も彼もが入手する。しかし、「愛されて・必要とされる」という表現だと存在し得るように聞こえる商品は、実際には「上質でもなく、手軽でもない」というどっちつかずに成り下がる。

だから「上質」を選ぶなら「上質を突き詰める」べきだ、とケビン・メイニーは言う。逆に「手軽さ」を選ぶなら、「手軽さを突き詰める」べきだと。そのどちらかを行えば、ライバルを遥か彼方に引き離すことができ、その市場を席巻することができる。

逆に、市場が「上質」か「手軽さ」のどちらかに偏っている場合、もう一方側に大きな市場が眠っている、ともケビン・メイニーは言う。
たとえば大学。大学は単にモノを教える場ではない。大学の生活、友人との連帯感、大学祭、試験やレポートの地獄…これら全体で「上質な体験」(もちろん、この場合は「快適な」という意味ではない)を与える事にフォーカスしている。
これに対する「手軽さ」のマーケットはまだほとんど開拓されていない、という。うーん、本とかがそれに相当するんじゃないか、という気がするが…。でも、確かにそのような専門書は本質的に入手が難しいし、パッと開いても普通の書物とのギャップが酷過ぎる。もっと分量があって、その代わりもっと判りやすい解説書があってしかるべきだろう。



…ようするに I18N と L10N はどちらを優先するべき、というものはない、ということだ。
ただし、一方に徹底しろ、中途半端が一番良くない。お客様は I18N に偏った端と、L10N に偏った端にいる。真ん中にはだれもいないぞ、と。

あなたの会社は、あなたの部署は、この事を意識しているだろうか?
商品開発の段階では I18N を徹底しており「手軽さ」の境地に居るはずの商品なのに、実際には品質が低くサポートへの負担が高く L10N でヒーコラとカバーしてたりしないだろうか?
あるいは L10N を徹底して「上質」が売りなのに、自由度が低くてお客様からみると I18N の極みのような商品で、なおかつ値段だけは高かったりしないだろうか?


逆の視点から見てみよう。
よく「グループ企業内コンサルテーション」というものをやりたがる人達がいる。例えば Linux に関する知識をグループ企業内で共有して、全体のコストダウンとスキルアップを図る、なんて奴だ。一見素晴らしいお題目に見える。でも I18N と L10N の視点からすれば、これほど駄目な発想もない。実際、大抵の場合、この手の目論見は大失敗する。「失敗じゃない」と言い張る連中は大勢いるが、誰がどう見ても失敗、と言う状態に陥るのだ。

「グループ企業内」ということは、コスト的には最低限で済ませたい、という意識がありありとある。でも、じゃぁ、グループ企業内部で欠落しているのは「グループ内部で共通している部分」だけだろうか? 誰もが知っていなくちゃいけない部分すら知らない奴が、どうしてその先にある「自分たちのお客様のための L10N サービスのために別途知らなくちゃいけない知識」を持っていると??
結果としてこのようなコンサルテーションを利用する人達は「コストは I18N クラスで、要望は L10N の極みを」という無茶苦茶な事を言うことになる…というかそういう事を言ってテンとして恥じない連中、別の言い方をすると「グループ会社全体としてのコスト意識」が欠落した「自分だけよければ後は野となれ山となれ」的な発想しかしない連中ばかりがたかってくるのだ。そう「新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -5.2- エージェンシー」で説明した「モラル・ハザード」と「逆淘汰」の世界に突入する。

グループ企業内のコンサルタントを行ないたいならば、まず I18N にフォーカスするのか、L10N にフォーカスするのかを決めるべきだ。
手軽なものならば「コンサルタント」ではなく「情報提供」に徹する。情報をまとめてイントラネットの Web に掲載し、検索エンジンを立てて検索しやすくする。さらに社内の別の検索エンジンと協力して「相互に」検索できるようにする事で誰からも発見されやすくする。しかし「問い合わせ」のような個別案件には一切かかわらない。その代わり固定費だけで抑える。
上質なものにするならば「コンサルタント」でいいだろう。ただし、要求するコストは社外コンサルタントと同じかそれ以上のコストにするべきだ。値段が高い分は「社内の、より信頼できるリソース」という付加価値を主張する。その上でその顧客専用に Focus を当てた対応をするのだ。L10N の極みを提供する。
このどちらかだけが正解で、その間の中途半端なところには、客が居ないか、売上が伸びるほど赤字になる地獄か、どちらかしか存在しない。



上質を極めようとすると、どうしても人手がかかる。このまま巨大になろうとすると、「-3- Scalable Organization」で述べたように組織を維持するためのコストが増大し、破綻してしまう。だから
上質を極めたければ
絶対客数を増やしちゃ駄目だ
同じお客様になんどもリピートしてもらうようにし、そのお客様のあらゆるニーズをカバーするようになるのはよいが、お客様の絶対数を増やそうと考えてはいけない

手軽さを極めようとするなら、
お客様の絶対数がいくら増えても
組織が大きくしない
方法をを考えなくちゃいけない。あらゆる自動化を駆使して、お客様一人当たりのコストを下げることを考えつづけなくちゃいけない。



最後に。この手の状態にあると必ずクレーマーが一定の割合で発生する。手軽さを極めようとしているのに上質を求めたり、上質を極めようとしているのに手軽さを求めたり。
そういう客は切れっ!
情け容赦なく、切り捨てろっっ!!
大丈夫。問題はない。
手軽さを極めようとしているなら、お客様は他に大勢いるはずだ。そしてそれらのお客様は「手軽さ」を気に入っているのだ。何千人ものお客様の中から一人減ったところでそもそも利益幅が薄いのだからほとんど影響はない。むしろその客を特別扱いしているのを見せつけられ、不快感を感じたために二度とこなくなる「大勢」が発生する方がよほど被害が大きい。
上質を極めようとしている店で値切るような客は、その店の品位を下げる。製品がまとっているオーラを曇らせる。下品な客が製品を使ったためにくすんでしまったオーラを復活させるのは至難の業だ。

判ると思うがこのようなクレーマーは大抵「上質と手軽さの中間点」にあなたを追い込もうとする圧力の一つだ。この一点を考えただけでも、クレーマーは切捨てるべきだ、と判るだろう。
クレーマーは客じゃない
これは、他のなによりも Focus から演繹される話なのだ。

2010年5月23日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -6- Announcement

さて。次は Announcement についての話だ。

…え? 所有権問題はどこへ行ったかって?
うむ。実は Announcement は所有権問題を解決するために必要なのだ。

そもそも、Annoucement というのは Communication の特殊ケースである。Communicationが双方向通信なら Annoucementは単方向通信。
会社の偉い人が
「これからわが社はこれこれ、こうするぞーーーー」
と社内に宣言するのも Announcement なら、社外に向けて
「新商品 wxy 新登場!! 従来にない操作感と、やまだかつてない噛み心地をあなたにっ!!」
と宣伝するのも Announcement だ(…操作感と噛み心地がありえる商品が何なのか、に関しては聞かれても答えるつもりはないのでそのつもりで…なんだろうなぁ)。

「運は天にあり。鎧は胸にあり。手柄は足にあり」
という上杉謙信の名台詞をご存知な方もいるだろう。あれも Announcement だ。


しかし、会社においてもっとも重要な Annoucement は、そしてその重要性が軽ろんじられており、故に大抵の無能な上司がやらない Annoucement は、こういう形式のものだ:

「この度、xxxxというプロジェクトを新規に立ち上げることになった。
このプロジェクトの存在意義は これこれ こういうことだ。
プロジェクトの責任者として yyyy 君を任命した。
いろいろあるだろうが、どうか皆、yyyy君を支援して欲しい。よろしく頼む」

さて。なぜこの Announcement はそんなに重要なのか? 無能な上司が…特に取引コストについても、エージェンシー問題についても、丸っきり理解していないことを態度で示している無能な輩が… Announcement についても間違っている、となる その限定合理性が示している問題とは何か? これを理解してもらうために、ここからしばらく、「所有権問題」について説明しよう。

所有権問題は、すでに述べたように限定合理性に伴って発生する3種類の問題の1つだ。
前の二つはそれぞれこう:
取引コスト問題:
取引する人全員が同じように影響を受ける問題。ようするに取引をする人達同士の間で対称形になっている。
エージェンシー問題:
取引をする人達が非対称形になっている。

なら、最後の1パターンは? もちろん
所有権問題:
取引をするはずの片方が居ない/所有していることを意識していない/全員が所有者で意思決定ができない
たとえば、大気汚染を考えてみよう。ある企業が有害物質を大気中にまき散らした。そのために大気汚染が起こった。人間は皆、空気がないと生きていけないし、汚れた空気だと健康を害する。だから怒る。

…でも待って。じゃぁ、この企業はどうすればよかったと? 誰に許可を貰えば有害物質をまき散らしても良くなるのだろう? あるいは
「それは有害物質だから撒き散らしちゃ駄目」(有害物質だと判っていたとして)
不許可を言明できる 大気の持ち主 って誰だろう??

我々は皆、空気を吸っているよね。正確には酸素を吸い込んで二酸化炭素とかを吐き出している。他にもアンモニア等、微量成分を色々吐き出していて、ある意味我々は全員大気汚染をしているとも言える。これは誰が許しているの?
体が大きい人は、体が小さい人よりも大気の汚染量が大きいよね? それは許してる(誰が許しているんだか知らないが)。企業は ものすごく体が大きい人 と同じ扱いをされちゃいけないの??
現実問題として、多くの人は自動車に乗ったりバイクに乗ったりしているよね。これも大気汚染を引き起こすよね? 光化学スモッグなんか典型的に自動車の排気ガスが主原因だと判ってる。これが OK なのはなぜ??

なんとなくみんなのものだと思っているが、いざ特別な使い方をしようとすると、誰に許可を得たらいいのか判らない。逆にどこまでが特別な使い方なのかもよく判らない。決定権を持っている人が居ない。所有権を持っているのだかもっていないんだかよく判らない。そういうものについて、何かしようとすると、一種のデッドロック状態が発生して話が前に進まなくなる。これが所有権問題。古典的には「共有地問題」として知られていた。

みんなの財産。共有財産。でも、それは誰のものでもない。だから誰かがその財産を枯渇するまで消費してしまっても気がつかない。止められない。それ以前にそれは止めていいことなのか?止める権利があることなのか?
「必要な者が必要なだけ消費する」
というルールは共有財産自身が自動で生産する能力の範囲内であればうまくいく。でも共有財産自身の生産能力を上回ったら破綻する。

逆もある。たとえば里山問題。
大昔、人は田んぼと同じ面積だけ里山を必要としていた。里山は人が手入れをする。木の実だのなんだのも手に入るが、一番大事な生産物は里山から得られる有機肥料。これを田んぼにまく事で生産性を上げていた。
でも化学肥料の発達のおかげで、里山は要らなくなった。誰もメンテナンスしなくなったので、里山は荒廃し、もはや昔のような有機肥料などの生産能力も失われた。保水力もなくなり、洪水の遠因にもなっている。
人が共同で管理しているからうまく動いていたシステム。誰も管理しなくなったら壊れてしまった…里山は誰のもの? 誰が管理「する義務があった」の? サボったのは誰??

このように、「そこにあるが、誰のものでもない。でも全員のものである」ようなリソース。そのようなものに対する、消費権利、管理コスト支払い義務は、かなり難しい解決不能な問題だ。何しろ調停するべき片方がいないのだから。



実は、この所有権問題。リソースだけが対象じゃない。問題も所有権問題の対象になり得るのだ。

は?何言ってんの

在日米軍基地問題とかを考えてみて欲しい。

「負担を沖縄にばかり求めるのはよくない」
うん。皆これには賛成するよね。
「じゃ、申し訳ないけど、あなたの家の隣に米軍基地が越してきます。騒音とか排気とかひどいことになるけど、許してね」
まてぇええええええっっ!!! そんなことを OK した覚えはないっっ!!!
「だって『負担を沖縄にばかり求めるな』っていうのに賛成したじゃん」
同じぐらい、俺にばかり求めるな、というのにも賛成するわいっっ!!!
米軍基地移設問題が何時まで経っても解決しないのは、この「総論賛成・各論反対」のせいだ。

総論賛成
各論反対

これも所有権問題なのだ。もうちょっと別の言い方をすると
それは全員の問題である
私だけの問題ではない

故に、全員で均等に発生する負担には従うが
私に集中的に負担が発生するのは許容しない
これはようするに、「問題の所有者が不明瞭」なために、全員がその問題の所有者であることを放棄し、その問題に対して他の人よりも多くの負担を求められることを拒否するがゆえに、問題解決が前に進まなくなる。デッドロックする。



会社のような組織において、問題点がどこにあるのかを探すのは簡単だ。また、それが問題であることを経営陣に納得させるのも比較的簡単だ。しかし、解決しようとすると突如として難しくなる。俗に「関係各位」と言われる連中から、大量の横槍が入るのだ。

「コスト削減が必要です」
うん、そうだそうだ。うちの会社は売上に対して利益率が低すぎる。

「コストの内訳を調査したところ、開発部が使っているPCの台数が多すぎることが判りました。
一人当たり3台ある計算になります。これを一人2台に減らしましょう。
電気代も節約できますし、中古品を売れば現金になります。」
いや待て。うちの部隊はそもそも開発をやっていてだな。計算機が3台無いとまわらんのだ。1台はOA用に必要で、これはIT部隊が要求するようなソフトを入れ、それ以外を入れない、と言う状態にしてある。もう一台は開発用で、最後の1台がビルド・テスト用だ。ビルドやテストの最中はCPUやメモリを大量に消費するので、開発マシンと一体化することはできん。すると最低限でも3台は必要なのだ。

「じゃぁ、ITのルールを緩めれば2台で済むんですね? では ITさん、ルールを緩めてください」
いや、それじゃセキュリティ上危険じゃないか。開発用マシンにはその目的上、クラッキングにも使えるツールが満載だろう? もしそのマシンを乗っ取られたら、会社のシステム全体を乗っ取るための道具をクラッカーに提供しているようなもんじゃないか。
もし、そんな事になったら誰が責任をとってくれるんだね?!

いやいや、そもそも、そこまで侵入された段階でお前のせいに決まってるだろうが。ツールが有るかどうかの問題じゃないし、内部のマシンのありようなんか関係なかろう。

何を言うんですか。うちのネットワークセキュリティは外部からの攻撃に対しては万全です。唯一の例外は、社内の人間が愚かにも釣りページに引っかかって、余計なツールをインストールした場合だけですよ。こうなると内側から内側を攻撃している状態になりますからね。さすがに我々が手を下すより早く、攻撃が完了してしまう。だから、余計なツールなんぞ入れずに、我々が許可したものだけを使っていてくれるのが一番安全なんだよ。

何が安全だ。安全に餓死するのと、病気覚悟でメシを食うのとで、お前は餓死することを選ぶのかっ!!

「…わかった。わかりました。とりあえず、開発部のマシンが3台ある件については後回しにします」
(やれやれ、これでどうやってコストダウンしろって言うんだ…)
こんな状態は、どこの会社でも、しょっちゅうなんじゃないかと思う。

どの部署も、誰もが、自分たちが使っているものを使い続けること、自分たちが欲しいものについての正当化はすでに出来ているのだ。そのためのコストは妥当だ、と思っている。だからコストダウンは当然やらなくてはいけないだろうが、それはうちの部署じゃない。あるいはうちの部署でも構わないが、正当性の前提である鬱陶しい拘束条件をたたき潰してくれ、という事になる。

いや、実際には上記の例はとても平和な例だ。実際にはこう言われることがほとんどだ。

お前はなんの権利があって、
うちの部署の予算の使い方に
文句をつけるんだ?!

Announcementをろくに行わない上司の元で、何かをやろうとした場合に必ず直面するのは、この形式の抵抗だ。

お前は俺の領分を侵しているぞ
お前の問題提起は正しいかもしれんが
俺の領分を侵犯せずに問題解決しろ

しかし、無能な上司の方はこう考えている。

お前にやれと俺が言ったんだから
やれないのはお前が無能な証拠だ

待てやボケナス。
「お前が俺にやれといった」事を示す
証拠はどこにある?!
その証拠なしに、
既得権を主張している奴らを
説得できるわけがなかろう?!

Announcement が重要な理由はこの一点につきる。有能な上司は、部下に仕事を割り振るときに、必ず Announcement をかけるが、そこには
  • 私が仕事を割り振ったのだ
  • 問題提起があり、私はそれを問題と考えた
  • 解決のために権限委譲をした。yyyyが担当だ。この件に関しての権限は私が承認した
  • 故に、yyyyから「これこれこういうふうに問題がある」と言われたら、お前はそれを直せ。
    このその部分問題に関する限り、それはお前の問題だ。所有者不明ではない。
  • 私はこの問題が早急に解決されることを望んでいる。もし十分に納得のいく意見なくyyyyの要求を蹴飛ばす事は俺が許さん
と、これだけのメッセージが含まれている。これによって所有権問題を解決しておかなくては、yyyy君は問題を解決できない。yyyy君自身にはあなたとおなじ特権は、デフォルトでは与えられていないのだ。

逆に Announcement を利用して所有権問題を解決しない上司というのは、いつまでたっても問題が解決しない、いつの間にか解決活動自体がフェードアウトしている…という経験をし続けることになる。
「うちの会社には実行力がない。全くもってけしからん」
それはあなたの部下が無能なのではない。所有権問題を最初に解決しない
あなたが無能なのだ

優秀な上司は Announcement を最初に行い、最後に行う。所有権問題解決のために最初に行い、真に解決したい問題が解決されたことをアナウンスして特権を解除するためにもう一度 Announcement を行うのだ。

2010年4月10日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -5.2- エージェンシー

取引コストは、誰にでも存在するコストだった。構造的には対称形をしている。と言うことは、次からは当然非対称な状態についての話になる。

エージェンシー理論では、取引をする2者は非対称になる。一方をプリンシパル(依頼人)、もう一方をエージェンシー(代理人)と呼ぶ。
エージェンシー理論においては、プリンシパルは何かをしたいのだが、自分ではできない。そこでエージェンシーを立てて自分の財産の一部操作する権利をエージェンシーに渡す。エージェンシーはその権利を利用してプリンシパルの目的を達成し、同時に自分でも利益を得る。これが理想的な状態。
プリンシパルは限定合理的なので、エージェンシーについて完璧な情報を得ることはできない。さらに、エージェンシーを常に監視し続けるととても高いコストを払うことになる。もちろん、プリンシパルとエージェンシーの利害が完璧に合致することはありえない。プリンシパルを裏切るとエージェンシーの儲けが増えるなら、エージェンシーは情け容赦なくプリンシパルを裏切るだろう。
また、プリンシパルがあるエージェンシーを雇うのは、そもそもがそのエージェンシーの方がプリンシパルの目的達成に関しての知識があるからだ。と言うことは、プリンシパルにはエージェンシーが秘匿している情報を知るには高いコストが必要になる。
このような条件下で、どのような問題が発生しうるのか、どのようにすれば問題の発生を抑えられるのか、というのがエージェンシー理論。

ぱっと考えて判るように、これ、意外と適用範囲が広い。
  • 株主と経営者
  • 雇用者と被雇用者
  • 規制当局と被規制者
  • 内閣の大臣と各官庁の官僚
など、規制やサービスなどはもちろん対象になるが、実はこの理論が有名なのは「中古車販売」だったりする。「自分の欲しい車を探している購入者」と「中古車を中古車市場から探し出し、購入者に転売して利ざやを稼ぐ中古車販売業者」もプリンシパルとエージェンシーだ。

大雑把に2種類の問題が発生することが知られている。1つ目は「モラル・ハザード」。もう一つが「逆淘汰」だ。より単純なモラル・ハザードから見ていこう。

モラル・ハザード

モラル・ハザードは…そのまんまだ。情報的にはエージェンシーの方が多い。プリンシパルはエージェンシーを監視できない。プリンシパルの利害とエージェンシーの利害は合致していない。
ヒャッホー
俺(エージェンシー)の好きにさせてもらうぜっ!!
こうしてプリンシパルは裏切られ、プリンシパルの利益は最大化されない。最大化されないどころか、下手をすると食い物にされちゃう。これがモラル・ハザード。


モラルハザードはいろいろな場面で頻繁に起こる。

例えば銀行の預金保護。あなたが銀行に預けた預金は保護される。銀行が破産しても国が元本分は保証してくれるのだ。銀行が持っている借金分は破産によって(資産分を充当した後)棒引きされる。株式会社って奴だからだ。
結果として、銀行はあなたの預金をよりリスキーだが当たればでかい博打に投入することができる。
勝負に勝てば、利益は俺のもの
勝負に負ければ、損害は国のもの
これで大博打を打たない方がおかしい。
もちろん、実際には銀行がやって良い業務には膨大な規制が掛かっていた。そのため、ここまで悪辣な方策は打てなかったのだが…。


ベンチャーの投資も同じだ。ベンチャーが立てた企業目論見書を見て、ベンチャーキャピタルはカネを貸すことを決める。しかし、ベンチャーがその目論見書通りに働くという保証はない。勝てば自分の利益、負ければキャピタリストの損、という状態なので、特に上手くいかない状態が続いたベンチャーは最後の博打を派手に打ちたがる、という傾向がある。


似て非なるけれど、やはり似ているのが、サブプライムローン問題。リーマンショックに至る原因ですな。
アメリカのローンは、借りる側をクレジットスコアで評価している。信頼ができる客をプライム層、それよりも評価が劣る人達をサブ・プライム層と呼ぶ。
プライム層に金を貸してもほぼ確実に金は返ってくる。なのでこれらの人達にお金を貸しても余りリスクは高くない。リスクが高くないので、様々な側面で利率が低い状態でしかお金を貸せない。そこでハイリターンを狙うなら、ハイリスクなサブ・プライム層の借金をどうにかして、リスクを下げることは出来ないか?! という事になる。
で、サブ・プライムローン問題の場合、住宅ローン…つまり担保があることを利用しての借金…を狙うことになった。さらに、債権を全部ひとりで背負うと大変なので、これを小さな単位に分割する。で、さらに他のサブプライム・ローンの借金の一部と組み合わせて、一種のポートフォリオを作り上げ、それを証券として売り出す、と言うことを考えた人がいたわけ。
担保があるので取りはぐれる可能性は低い。また、複数の借金を組み合わせてポートフォリオ化しているので、一人の借金が焦げ付いても被害は簡単には甚大にはならない。そういう発想なわけだ。

え?これだといいように聞こえる?えぇ、実際、この場合のエージェンシー…つまり借金を証券化した人達…自身も自分たちが一種の詐欺を働いているとは気がつかなかった。
サブ・プライムローンの問題は、ようするに各借金並びに担保回収の可能性は一次独立である、とした仮定にある。ある一人の借金が焦げ付いても、別の人の借金は焦げ付かない。ある一人の借金の担保である家の価格が下がっても他の借金の担保である家の価格は下がらない。そういう仮定があったわけ。
でも、景気にはトレンドというものがある。景気が悪くなれば最初に首を切られるのは誰か?サブプライムにクラス分けされている人達はまさにその「最初に首を切られる可能性が高い人達」だからサブプライムにクラス分けされているわけで…で、その時に担保として取り上げた家の評価額は? そら下がってるわな。多少なら下がっても大丈夫だろうけれど、バブル経済は
バブルがはじけた時の評価額下落量が、
さらなる焦げ付きを発生させる程酷くなったら
バブルはハジケる
気がついたら、プリンシパルはとんでもない博打を打たされていた、という状態に陥る。

逆淘汰

プリンシパルは、エージェンシーの裏切りに耐えるしか無いのか? いや、そんなはずはあるまい。何らかの対策が打てるはずだ。そう考えた人は沢山いる。何よりも、そんなに裏切り行為ばかりだったら、そもそもほとんどのサービス市場は成立しないじゃないか。でも、多くの人は裏切り行為を経験することもなく、サービスを手に入れている。きっと、なにかあるんだよ…

最も簡単な対策は、エージェンシーからのアガリにリスク分を最初から含める、というものだ。
先程のサブプライムローンの場合を考えて欲しい。借金を必ず返せるだろうとされるプライム層と、借金が返せない可能性があるサブプライム層では、同額を借りても利率が違う。サブプライム層にカネを貸すと裏切られる可能性があるから、その分割高にすることでリスクを相殺しよう、という考え方だ。やれやれこれで一安心…だろうか?(つーか一安心なら逆淘汰なんて項は作らないよね)


一番有名な「一安心じゃなかった」例が レモン市場 と呼ばれる現象。特に中古車市場で起こったケースが有名だ。そう、実際問題は起こっている。

中古車を買ったことがある人はわかると思うけれど、中古車の品質を調べるのは大変だ。年数、走行距離程度じゃ車の品質はほとんど判らない。事故歴・故障履歴はもちろん、改造されている可能性だってあるわけだから。
もちろん、中古車を売る側…この場合のエージェンシー…はそれらの情報を全て持っている、と仮定しよう。中古車を買う側…この場合のプリンシパル…はエージェンシーの詐欺行為からどうやって身を守ればよいだろう?
容易に考えつく手の一つが、リスクに応じてプレミアムをつける、と言うやり方だ。ある中古車は30万円の価値がありそうだ。でも騙されているかもしれない。だから20万円までしか出さないぞ、というわけ。相手が正直であれば10万円分得をする。不誠実だったら20万円の損だが30万円の被害よりはましだ。

実際にこれをやると何が起こるだろう?
正直なエージェンシーが中古車を売りに出す場合を考えよう。実際には30万の価値がある。エージェンシーは30万円だと見積もっている。プリンシパルも30万円の価値があると考えたが、プレミアム分を引くので、プリンシパルは20万円しか出さない。結果、この良質な中古車は中古車市場に流通しない。
嘘つきなエージェンシーが中古車を売りに出す場合は?実際には10万円の価値しかない車を、30万円の価値があるかのように偽装してうりに出したとする。プリンシパルは20万円で勝負を挑む。エージェンシーは +10万円 を濡れ手で粟で手にいれた。この場合この悪質な中古車は中古車市場で流通する。

プレミアムは悪質な車だけが流通する状態を作る。良質な車はプレミアム分の値下げに耐えられず市場から出て行く。こうして悪質なものばかりが流通する市場が出来上がってしまう。
このようにプリンシパルが目的とした結果と逆方向に市場全体が流れてしまう状態を 逆淘汰 と言う。



逆淘汰を防止するにはどうすればよいか? 実は解は見つかっていない。一見解になっていそうな解決策が致命的な弱点を持っていることが多々ある。
一般解としてよく言われるのが「インセンティブ」的な考え方だ。エージェンシー理論における諸問題は全て、エージェンシーとプリンシパルの利害関係が合致しないために起こる。なら合致させればいいじゃん、というわけ。

例えば営業。営業マンに会社の商品をより積極的に売ってもらうにはどうすればよいか?喫茶店やパチンコ屋で一日を過ごすのではなく、お客様を訪問し、ニーズを聞き出して商品を売り込んでもらうにはどうすればよいか? よくあるのが インセンティブ制 の考え方だ。つまり売上の一部を営業マンの利益としよう、と言う考え方。これで、営業マンは働けば働くほど収益が増え、プリンシパルもエージェンシーも万々歳…一時期とても流行った考え方だ。今でもこの方式をとっている会社がほとんどだろう。
生憎、この方法は非常に悪質な営業マンを呼び寄せる。
インセンティブ制の弱点は、「売上」にしか注目していないことにある。商品を買った客は、自分が買ったものが自分が欲しかったものと合致しないと、企業に対する評価を下げる。消費財の場合下がった評価はもとに戻らない。耐久消費財の場合、サポート部隊がお客様の直面している問題を改善するべく活動し…結果、営業が不適切な商品を売ったことを発見する事が結構あるのだ。
売上は、契約が成立し売掛金を回収した段階で成立する。お客様に不適切な商品が売られたことが判明するのはその後のことだ。優秀で悪質な営業マンは、お客様のニーズに対して微妙に性能不足な…しかし価格的には安い商品を売り込む。複数のお客様に同時に売り込み、インセンティブを一気に稼ぎ、転職する。問題が発覚しても、その営業マンはもういない、会社に被害が残る、というわけだ。


似ているが、さらに問題がややこしい例として「社員持ち株制度」があげられる。社員自身が会社の株を持つことで、会社の業績と社員の収益の間に相関性を持たせることができる。会社の業績がアップすれば株価もアップし、配当も受け取れる。社員は会社の業績をアップさせるために精勤する事が、自身の利益へと直結する…
生憎これは最悪のシナリオを考えていない。
会社の業績に関連する、会社内部要因に社員の精勤率があるのは事実だ。しかし、同じぐらい、経営者の能力がモノを言う。経営者が馬鹿な指示を出し、社員がそれを精力的に実現しようとすると、会社の業績は急激に悪化する。悪化するためのシナリオを精力的に実現しているんだから当然だ。
会社の業績と精勤率の間に逆相関が現れた事は、社員が誰よりも早く気がつく。この瞬間から、社員の忠誠心が急速に失われて行く。持株の価値を下げまいとするためにサボタージュを行うものもいれば、損害を最小化するために持株を売り払おうとして市場に売り圧力を発生させ、さらに持株の価値を下げてしまう社員もでる。結果、事態は加速度的に悪化して行く。
社員の精勤率が下がった状態で、仮に経営者が過ちに気がつき、修正をかけようとしても誰も動いてくれない。そもそも、その「修正」を提示している経営者への信頼がすでに無くなっているのだ。一見正しそうに見えるからと言って、どうしてそれで事態がよくなると言える? それよりこのボロ船から取れるだけのものを取って、とっととおさらばしようぜ……
結果、修正は実行されることなく、事態はさらに悪化する。

経営的には正しいが、社員への負担を要求するような施策を経営者が出してきたとする。社員にはジレンマが生じる。株主としての社員はこの施策で利益を得る。社員としての社員は損害が出る。プラスマイナスを勘案するとどちらが大きいか? これは持株を多く持っている社員…大抵は古株の社員…程プラスに、新人ほどマイナスになるだろう。この施策は、会社の結束力を分断する結果を産んでしまう。
もっと困ったことも起こる。持株を多く持っている社員が自らの利益を最大化しようとすると、この会社に対しては純粋に株主であるのが最適になる。つまり古株の、多くのノウハウをもった社員が転職するきっかけを作ってしまうのだ。逆淘汰圧を社内にかけたのと同じ状態に陥る。

これらの問題を回避しようとすると、経営陣が打てる手として残っているのは非常に穏当なものしか無い、と言う状態に陥る。これでは急激な市場変化…リーマンショックによる世界同時不況とか…に対応出来ない会社になってしまう。これはこれで、プリンシパル(株主)の利益が阻害される…



実はエージェンシー理論が、通常の方法では解決出来ないのには理由がある。解決策として提示されているものが全て、価格ベースの解決策なのだ。
Who is Customer』の所で示したように、市場において価格はゼロサムに為るように流通する。つまり、私と貴方が取引をした場合、そこを流れるモノやお金は取引前も、取引後も0になる。何も残らないし、何も残さない。取引によって取引をした人達双方の価値の総和は増える。しかし価格はゼロサムなのだ。
価格ベースの解決策は、会社が手に入れたお金の分配法則だけでプリンシパルとエージェンシーの利害を合致させようとする。しかし分配できるお金の総和は固定だ。そのため、プリンシパルの取り分が増えるとエージェンシーの取り分が減る、と言う状態が発生する。
会社が成長しているときは、それでも双方の取り分が増え続けるので、問題は発見されにくい。しかし、会社の成長がとまったり、何らかの理由で収益が減った場合、プリンシパルとエージェンシーは取り分をめぐって争いを始めることになってしまう。利害が一致する、とは利益が出ているときは良いが、被害が出ている時も一致してしまうのだ。

ここまで説明すれば自明だろうが、エージェンシー理論の真の解決策は 価値ベースの解決策 を見つけることでしか得られない。足して0にならないのは価値だけなのだ。プリンシパルからみて価値の低い、しかしエージェンシーから見て価値の高いものを取引材料に、プリンシパルから見て価値の高い、しかしエージェンシーから見て価値の低いものを引き出させる。この状態を作り上げて、エージェンシーが正直であるほどエージェンシー自身が得をするように、しかしそれによってプリンシパルが手持ちの資産の価値の総和を大幅に引下げなくても済むようにしなくてはいけない。
実際、世の中のプリンシパルはエージェンシーを選ぶ際に、単純に能力や価格だけで選抜しているわけではない。エージェンシーの持つ価値観を調べ上げ、その価値観に合致し、エージェンシーの資産価値が上昇するように報酬を設定することで、エージェンシーの忠誠心を引き出している。これがエージェンシー理論のような問題が、現実の世界ではなかなか発生しない…とくに個別の取引において発生しにくい…理由だ。逆にそのような状態が作りにくい中古車市場などでは、エージェンシー理論通りの問題が発生する。


優れた経営者は「価値観の共有」を唱えたり、逆に現場主義を唱えて自ら社内の状態を調べ社員の意見を聞き出そうとする。これは社員ひとりひとりの価値観を調査し、また価値観を会社のそれと合致させることで、会社と社員の利害を「価値観レベルで」合致させようとしているからだ。また、会社として社員へ報酬を与える場合に、単に金銭的なものだけではなく休暇や仕事上のチャンスを与えるという形をとるのも、価格という形ではなく価値のレベルでの報酬を最大化しようとするからだ。このために、優れた経営者は社内というマーケットの調査を怠らない。

逆に無能な経営者は、この社内というマーケットの調査を怠る。何よりも自分から進んで調査しようという発想がない。
非常によくあるのが、オープンドア・ポリシーを誤って使うケースだ。
「俺はここにいる。ドアが開いている時はいつでもやってきて問題を伝えてくれ」
まぁ、確かに。常にドアを閉じているよりはましだが、これは雛が口を開けて「餌を頂戴」と叫んでいるのと同じ。しかし、そのような人に今自分が直面している問題を伝えたからと言って、それをどう使うのか? その経営者を信頼できる理由はなんだろう? 解決策が優れていると判断出来る理由はなんだろう? 過去に実績がないのに。
この人は、社員が抱える取引コストを
一切下げようとしていない
そんな人に相談をして、それが相談者に取って不利に扱われない、と考える理由はどこにもない。
積極的に問題を発見し、解決しようとしてくれる人ならば実績も存在する。そのような人がオープンドア・ポリシーを使っているならば、社員は積極的に相談に行くだろう。しかし、そうじゃない場合、オープンドア・ポリシーはただの自己満足に過ぎない。情報は何も集まらない。そして、この場合
情報が集まらないのは
最悪の情報
なのだ。


これで判ったと思うが、優れた経営者であるためには社員の、優れた上司であるためには部下の、ニーズを探り、問題点を発見し、社員を/部下をお客様として、彼らにとって自社で働くことの/自分の部下であることの価値を最大化しようとしなくてはいけない。
「あぁ、この会社で働いていてよかった」
「この人の下で働いていてよかった」
と思えるためには、相手の価値観を知らなくてはいけない。このために、Communication がとてつもなく重要になる。
そして、それは決して社員の/部下のためではない。彼らがあなたを裏切らないように、信頼できるエージェンシーとして使えるようにするために、必要な作業なのだ。


あと、一点、重要なポイントがある。よく優秀な経営者の実績を調査すると、彼らは仕事時間を
社内問題に20%
社外問題に80%
となるように使っている、という調査が出てくる。これを見て、
「やはり優れた経営者たるもの、自らが社外に出て営業して回らなくちゃな」
とか馬鹿を言い出す奴がいる。
それは原因と結果を取り違えている
優れた経営者は、自分の部下を十分に把握している。そのためにたっぷりと時間をかけて価値観を調べ、共有し、信頼されるべく実績を積み、それでも価値観が合致しないものは取り除く、と言うことをしてきた。
だから今、社内には20%の時間を掛けるだけでよいのだ
優れた経営者は、社内に問題が発生すれば 30% でも 40% でも100%でも時間をそちらに振り向ける。社外問題を解決しようとしている最中に、背中から撃たれるほど効率を下げ、やる気をくじくことはない。だから、まず先に味方を完璧に支配するのだ。
十分なコミュニケーションを取ることで、このような状態にすることは可能だし、優れた経営者の実績がそれが可能であることを示している。

2010年4月4日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -5.1- 取引コスト

まずは取引コスト(Transaction Costs)から始めよう。

…何についてでもいいのだが…そうだな、たとえばパソコンについてちょっと考えてみて欲しい。
あなたはそろそろ新しいパソコンを買おうと考えている。どこのメーカーのどの機種にするか…

はい。ストップ。

今考えたメーカーは、今使っているメーカーと同じじゃないだろうか?
今考えたパソコン上で動いているOSは、今使っているものと同じ(あるいはその後継)じゃないだろうか?
なぜ、それらを選んだのでしょう?
OSはいまや沢山あるよね。普通の人がちょっと考えて出てくる選択肢だけでも、Windows7、MacOS X、Linux ぐらいはある。Windows上で作ってきたファイルはほぼ全て MacOS X や Linux 上でも使える。逆は若干苦しいが…特に MacOS X 上で動く Keynote のカッチョ良さに匹敵するものはないし…でも、Keynote を使いこなしまくる人以外は MacOS X である必要性はそんなに高くないはずだ。
合理的に考えれば、新しいパソコンで使うOSを何にするか、新規に一から検討をするべきだ。当然、そのOSに合わせてハードウェアを選択するべきだろう。
しかし、現実にはそのようなことをする人はほとんどいない。新しいOSは古いOSと同じか、その後継OSだし、ハードウェアも今使っているのと同じメーカーで、ほぼ確実に他のOSがサポートしている互換性とかは気にもしない。

車を買う時も同じだ。トヨタの車を最初に買うと、ほぼ確実にずっとトヨタ。マツダならマツダ。ホンダならホンダ。日産なら日産。メーカーを変えるのは外車に買い換える時か、なにか画期的なものが出てきたか(ハイブリッドカーとかね)、よほど車メーカーが酷い形で信頼を失った時ぐらいなものだ。

限定合理的な我々は、知らないメーカーや知らないOSについて知らない。文字通り、情報が不足している状態なのだ。しかし調査しようとするとコストが発生する。そのコストを払ってまで情報収集するべきか? それともコストを払わずに候補から外して真の最適からは程遠い状態になるリスクを取るか? この決断をしなくちゃいけない。もし、調査対象がこのコストに見あうほど品質に大きな差があるとは思えないならば、このコストは払うに値しない。
パソコンはどこでもハードウェアはインテルかAMDで演算パワーも大差なく、メモリ容量も似たようなもので、HDDのサイズも同じ。ならOSが多少違ってもできることは似たようなものだろう。天と地ほど違いはないなら、いちいち全部調べるに値するとは思えない。じゃぁ、今のままでいいや…
車はどこでも同じようなもんだろう? 燃費がリッターあたり2倍も違ったりするかい? 同じような値段で、同じような形の車なのに、運転のしやすさは変わらずに一方だけ空を飛べて今の後継だと飛べない、なんてことはないよな? じゃぁいいじゃん。今のままで…あ、ハイブリッド。そうね。じゃぁトヨタかホンダを候補に入れよう…

判るだろうか?見知らぬ候補は調査コストと言う名のハンデを持っているのだ。
『今と同じ(後継)』 >(価値) 『見知らぬ候補自身の価値』 - 『調査コスト』
という不等式が成り立つ限り、ほとんどの人は「今のままでいいや」「今の後継でいいや」となる。これを上回るほどの価値が「見知らぬ候補」側にはあるのだ、という事が事前に伝わっていなければ、そもそも検討の候補にすら上がらない。
ここの『調査コスト』のように、知らないモノに関して取引を行う場合は、知っているモノに関して取引を行う場合に比べてコストがかかる。これを 取引コスト と呼ぶ。

買い物をするなら、見知らぬ店より行きつけの店の方が良いのは、見知らぬ店の信頼度について新たに調査するコストを掛けたくないからだ。同じ値段で同じものを売っているように見えても、見知らぬ店の場合騙されているのかもしれないじゃないか。
だからこそ 贔屓 という概念が出てくるし、そのような贔屓を沢山作った店は、他店より微妙に高くても客が離れることはない。あまり高いと離れていくが。どれぐらい高くても大丈夫か…という辺りは ブランド力 と呼ばれる。ブランド力は、同業他社製品に対し取引コストを引き上げる効果がある。また、同一ブランドネームの他商品に対して取引コストを引き下げる効果もある。
多くの企業が広告を打つのは、自社を知ってもらい、自社製品を知ってもらうことで、取引コストを少しでも下げようとしているからだ。無限にコストを掛けるわけにはいかないから、どこにどうやってアプローチすればいいか? と考える必要が出る。これが マーケティング というものだ。


取引コストにはコミュニケーションがよく効く。取引コストとは無知であるが故に生じるコストだ。じゃぁ、自分のことを相手に伝えることで相手の自分に対する無知を軽減させ、相手の事を知ることで自分の相手に対する取引コストを下げればいいじゃないか。コミュニケーションのためのコストが掛かるが、「モノが売れないことで生じるコスト」だの「より良いサービスをより安く手に入れ損なうことで生じるコスト」の方が大抵の場合大きい。なによりも、その状態だと「価値としての損失」よりも「金額としての損失」が大きい。


「あなたが作っている/扱っている商品を買ってくれるお客様」という Customer の場合、こういう事が言える。

仮にあなたの作っている/扱っている商品が本当に良いもので、でも売れない。他社のもっと質の悪いものは売れているのに…というなら、
あぁ、これは取引コストが高いせいですね
と言えば、100% 正しい。とはいえ、これじゃ何も言っていないに等しいが。
  • あなたの会社名がお客様(あるいはお客様候補)に全く知られていない
  • あなたの会社が扱っている商品が何か全く知られていない
  • 商品が何をするものなのか知られていない
  • 自社内のニーズが見えておらず、商品の必要性が分からない
  • お客様のニーズが見えておらず、商品の方向性/宣伝の方向性がダメダメ
  • 商品を入手するための連絡先が判らない
  • 商品の説明カタログが、日本語じゃない
  • 商品のマニュアル類が日本語じゃない
  • そもそも必要なマニュアル類が無い事が露呈している
これらは全部お客様候補に取引コストを生じさせる。大抵の外資系企業が日本に来て「モノが売れない、非関税障壁だ」などと呻いている場合は、絶対これらの取引コストを引き下げようとする努力が 全くもって、丸っきり、全然、馬鹿かと言うぐらい 足りていない。IT業界の製品を考えただけでも、NEC, 日立, 東芝, 松下, 富士通 などが一般家電からPCから何からで常に名前を見ない日はない、という状態な所に割り込む必要があるのだ。どれほど売り込みが必要か…IBMぐらいだろう、取引コストが十分下がったのは。逆に富士通はエフサスとかPFUとか、無駄に取引コストをあげるブランディングを打ちすぎている。
逆に日本製品がアメリカとかで売れている場合というのは、これらの取引コストを引き下げるための努力がもの凄まじい。"you asked for it, you got it, Toyota," というキャッチフレーズなど、1976年にアメリカにおいてラジオを付けていると GM, Ford, Chrisler のCMの合計に匹敵するぐらい聞こえてきたことがあるぐらいだ。自動車を買うわけがない幼稚園児までがToyotaの名前を知っている、これぐらいじゃないと海外勢の取引コストは下がらない。
"YAMAHAはアメリカの会社だ"
と思い込んでいる人が過半数を占めるぐらい、現地に馴染まなくちゃ「会社を知られていない」という取引コストは下がらないのだ。

無知に伴なう心理的コストには恐ろしいものがある。これは特に日本において顕著な特徴だが
未知のバグより既知のバグ
という顧客傾向がある。
古いバージョンは「既知のバグ」が100個ある。それらは全て正体が判っている。新しいバージョンは「既知のバグ」は一個も無い。そんな怪しげなモノは使えるか。そう言って、既知のバグの多い古いバージョンのソフトウェアを使いたがるのだ。
ちょっと考えれば判るように、新しいバージョンでは古いバージョンにあった100個のバグは直っている。直したから、既知のバグが0になったのだ。もちろん未知のバグはあるだろう。しかし、それは古いバージョンだって同じなのだ。従って、ソフトウェアであれファームウェアであれ、fixそのものに大きな問題が無い事を確認したら、可及的速やかに新しい版に移るのが正しいあり方なのだが、そうしない。
「未知のバグ」と「既知のバグ」で前者の方が取引コストが大きい場合、「既知のバグがある方が安心できる」という状態に陥るのだ。え?未知のバグの数はわからないだろうって? いやいや。バグの総数から100個、既知のバグの分だけ未知なるものが減っているんですからそちらの方が安心ですよ、えぇ。
バグの総数は一定なんて誰が決めたっ
でも、総数が判らないのは一緒なんだから…と考えると、総数は同じのように感じるよね?ようするにある無知が、別の無知と既知のコスト差を逆転してみせることすらもある、と言うことだ。

取引コスト問題を解決するには、本質的には啓蒙とか宣伝とか…ようするに情報を与えるしか無い。だからセミナーとかをやっている会社は多いが…そもそも「よく分からない会社」のやっているセミナーに出たいと思う、あるいは時間を割くべきである、と考える人はいない。ここにも取引コストがいるのだ。いくらセミナーの案内に
「御社が抱える問題を解決するソリューションがここにある」
とか書かれてもねぇ、それを鵜呑みにするには殆どの人はすれているし、人生ですれていないほど学習能力のない人がセミナーに来ても何も学ばずに帰るのがオチだ。

新規顧客が持っている取引コストはこのように非常に高い。だから一度お客様になってくださった方がいたら、リピーターになってもらう方が良い。せっかく相手との取引コストが下がり始めたのだ。お客様が持っている不平・不満を聞き出し、煽り立て、うちの会社の製品がそれをいかにスマートに解決するか刷り込まなくてはいけない。状況によっては他社製品をお勧めする場合でも、その製品が良ければ良いほど、勧めた人の価値も一緒に上がるように、それによって結局取引コストが下がって自社に戻ってくるように、きめ細かくコンタクトを続けろ…営業マンがもっともハッパをかけられるのはここだし、優れた営業マンがやっているのも要するにこういう事だ。
優秀な営業ほど口下手で、自分から物を話す量は少なく、相手にたくさん話しをさせる、というのも実は同じこと。お客様はしゃべればしゃべるほど、営業マンに対する取引コストを引き下げてくれる。
「こんなに私のことを理解してくれてはるんやから」
いや、おばちゃん、あんたが独りでペラペラ喋くってるだけですがな。
逆に営業マンが喋くりすぎると、話に割って入りたいとか、よく解らん事を言われてだけど質問するのも恥ずかしいし(これも取引コストだ)…と、相手に対する心象が悪くなる。心象の悪いヤツに自分が困っている事を打ち明ける人はいないわけで…こうして取引コストは高いままになる。下手をすると最初より高くなったりすらする。

そうそう。はてなブックマークにコメントを書いている人がいたが、床屋は確かに良い例だ。
新規顧客が来たら、床屋は相手に関する情報を引き出そうと色々話しかけてくる。髪を切っている間は特にそうだ。しかし、シャンプー、髭剃りと進むに連れて徐々にしゃべる量が減る。
一見床屋話しているように見えるが、実は床屋は「お客様が話せない状態」では話しかけない。椅子が横倒しになって客が眠くなったら邪魔をしない。話せるときに話す、というのは取引コストを下げる。話せない時に話をさせないのも取引コストを下げる。
軽く居眠りをしてから髪型を整えると、ほぼすべての人はすっきりと快適になって床屋を出る。他の未知の床屋よりも取引コストが下がった状態になり、故に一度行ったことのある床屋は再び訪れる率が高い。
実際にはほとんどの床屋で同じことを経験することができるので、よほどひどい場合を除いて、どこへ行っても「その床屋との取引コストは下がる」のだが…そこでは「未知より既知」のルールが働く。全く同じなら、なにも未知の床屋にチャレンジしなくてもいいじゃん。既知の床屋の方が確実なんだから。
こうして はてブ にあった事を取り込む事自体も取引コストを下げるための方策だ (^^;)



さて、逆にあなたが材料を買ったり、サービスを買ったりする場合。

当然予測されることだけれど、情報収集を怠るな、というのは一つ目の大事なポイントになる。意図的に新規・未知の取引相手に対する取引コストを引き上げちゃいけない。
と、同時に。すでに取引のある相手との取引コストが下がるように働きかける必要がある。あなたが商売するうえでリピーター顧客が大事であるように、あなたがサービスだの材料だのを買う相手もリピーター顧客は大事なのだ。ちょっとしたアイディア…そう -3.3- off demand で書いた、ルンバを使う話とか…は積極的に相手に与えるべきだ。どうせ自分で抱えてても現金化できないんだから。
くだらない話かもしれない?うん、それは相手の営業はよく判っている。でもあなたを邪魔したりはしない。100本に1つぐらいは、どうにか使えるアイディアがあるのを営業マンは知っている。1万に1つぐらいになると、まじで商品化できるものがあるのも知っている。そうじゃないハズレの話であっても、少なくとも客(あなただね)の取引コストが下がる事を直感的に理解している。だから、そうそうムゲに無視したりはしない…というか聞く耳を持たないのは無能な営業マンの証だ。
万が一、本当に商品化したら?
「お客様に教えていただきまして」
「お客様にご意見をいただいて、二人三脚で開発いたしました」
100%自前で作ったとしてもそう言って売り出すはずだ。既存顧客を満足させ、また新規顧客に「他の人が欲しいと言うなら何かあるに違いない」と興味を湧かせる事で取引コストを下げるために。

で、だ。あなたの取引コストを下げている時に、実はあなたは
営業マンのあなたに対する取引コストを引き下げている
事に気がついているだろうか? 新規顧客へ飛び込み営業するのがすごく苦痛な営業マンは多い。それは「営業マン側にも取引コストがある」からだ。どうせ取引をするなら「飛び込みが苦手そうな営業マンが飛び込み営業をかけてきたとき」にするのが良い、と言うことが判る。営業マン側の取引コストを上手に下げてやれば、その営業マンは他の新規顧客に飛び込み営業をする必要性が減る。少々の無理を聞くコストと、新規顧客に対する取引コスト、どちらが安いか…
もちろん、その際にさらに相手の口車に乗ってしまって、結局自分の出費の方が大きくなっちゃった…というのでは全然意味がないが…。



さて。物やサービスを「売る側」「買う側」がはっきりしているこれら2つは、とても判りやすい対称形なので、単純に取引コストだけを考慮してもいろいろ言えることがある。ところが会社と社員のような形になると、この取引コストがものすごくいびつな形で現れることがある。エージェンシー理論の中には取引コストの一形態、あるいはミクロなレベルでの取引コスト理論が積み上がってマクロレベルでの問題として発現しているものがある。

そこで、会社と社員の取引コスト問題は、エージェンシー理論の方でまとめて書く。


そうそう。取引コストについて述べる時にはこの本を紹介するんだった。「あなたの会社が90日で儲かる!」。この本の中身は玉石混交ではっきり言って自分で何を言っているのか判ってかいているとは思えない内容なのだが、当然玉の部分がある。それは、広告を打つときの姿勢。この本に書いてあることを書き換えるとこうなる。

広告は、商品を買ってくれることが確定している人をターゲットに打つのではなく、何らかの理由で取引コストが高くなっている人にもアプローチするように打て。そのためにも、「これを買え」的な広告ではなく、「情報を提供する」とか「サンプルを渡す」とか、そういう形のアプローチを取れ。
商品を買おうとする人にとって、取引コストには大雑把に「必要性の不足」と「魅力の不足」の形で発現する。

「面白い商品だけれど、それは今必要なわけじゃない」…これが必要性の不足。
「必要なのはわかるけど、もうちょっと待てばもっと良いもの/安いものが出てくるかもしれない」…これが魅力の不足。

両方共不足している場合は、買ってくれる確率はとても低い。でも片方だけならどうにかなるかもしれない。そこで、まず広告を打つ。両方共満たされているお客様は即座に買ってくれるだろうが、片方が不足しているようなお客様でも何らかの反応を示すように、広告を打つ。
で、このような「片方が不足していそうなお客様」に対して営業マンをアプローチさせる。最初から取引コストがある程度低い人な上に、ある程度コミュニケーションを取ればどちらが不足しているのかは明瞭になる。そこを集中して攻めさせれば、成約率は高くなる。そうなれば営業マン一人当たりの効率も良くなる。
この本には、広告の見てくれだとか、お願いする形で文章を書けとか、本質とは全く関係ない内容が大事そうに書かれている。そういう「石」な部分を取り除くと、「取引コストに注目しろ」という非常に正しい本質が出てくる。

2010年3月20日

新人じゃなくなった人は何を気にするべきか -5- Communication

新社会人にあなたならまず何を教えるか -2- CS』 において説明したように、Customer Satisfaction は3つの要素から成り立っている。

CS = T × T × F

最初のTTechnology つまり 「技術力」
次のTTransfer/Translate つまり 「伝える力」
FFocus 「焦点」

この内、Technology についてはもう、ほぼ予測がついているのではないかと思う。商品に価値を加えるのも技術なら、商品を量産して不良品を出さないようにするのも技術だ。すべての作業を手作業で行うのではなく、一連の自動化された作業に変換するのも技術だ。これらによって、商品に付加価値を加える事、それも安定した品質で(商品ごとのばらつきを少なくした状態で)提供出来ることは、お客様に安心感を与える。

「これ…そっちのと同じに見えるけど、本当に同じかなぁ…」
「いや、普通は同じやろうけど、このメーカー、昔から信頼ないからなぁ…」
なんぞと評価されるようでは、顧客満足度は向上しないのだ。ここに Automation と、それを実装するための Technology の重要性がある。





さて、問題は二つ目の T … Transfer/Translate あるいは Communication だ。これはなぜ重要なのだろう?

Customer が商品を買ってくれる人だとして、Communication が大事な理由は?
Customer が材料を売ってくれる人だとして Communication が大事な理由は?
そして Customer が社員だとして、Communication が大事な理由は何だろう?
なぜ Communication を重視すると顧客満足度は向上するのだろうか?

限定合理性を解決するため

実はこれだけで説明がつく。うん、判ってる。問題を「限定合理性」にすり替えただけだよね。まぁ、でもご想像の通り、ここから先は限定合理性の話になる。この限定合理性というのはこの次の Announcement でも重要なので

早速だが本を一冊紹介。この本はすごく簡単に言うと
第二次世界大戦で日本軍が行った数々の
どう考えても負けるだろ、それは
的な戦略的失敗は、従来は非合理性によって説明されていたが、実は限定合理性で説明すると論理的に説明出来る上に、他の組織の失敗についてもに多様なことがあるんじゃないかぁ?と言うことまで判る。
と言う話。太平洋戦争の日本軍には限定合理性から来る失敗が全てあります、と言わんばかりの勢い。いや、たぶん本当に全部あるんじゃないかと…。
限定合理性の話が判ると、組織運営においてどういう落とし穴があり得るのか、特に参加者全員が善意から参加していたり非常に頭が良かったりしても、組織全体としてはうまく回らないことがなぜ起こるのか、よく判ります。たぶん、以下に述べる私の説明よりも。

とまぁ、逃げを打つのはこれぐらいにしておいて :p

仮に神様であれば、何かを判断する際に次のような前提を立てても大丈夫でしょう。
  • 判断をくだすために必要な情報がどんなに膨大でも、取得コストは0である
  • 判断をくだすために必要な情報がどんなに膨大でも、それを保持・参照するコストは0である(つまり時間をかけずにそれらを検討対象に加えることが出来る)
  • 判断をくだすために必要な計算量・演算量がどんなに膨大でも、必要な時間は0で計算が終了する
  • 判断をくだすために必要な情報が何なのか、わからなくなるなどと言うことは絶対にない(判断に必要な情報が何かを把握する、というコスト自体が0である)
あ、ここでいう「コスト」は、時間がかかるとか、お金がかかるとか、何かの作業をするために別のことを諦めなくちゃいけなくなるとか、そういったもの全てをさします。単にお金だけの話ではありません。

さて、人間は神様ではありません。ですから上記のような仮定は取れません。しかし、だからといって全ての判断がサイコロを振っているのと同じ、と言うほど非合理的でも無い。そこで、
人間は限定合理的である
と仮定し、その場合に様々なことが説明できないか?というアプローチがあります。経済学では 新制度派経済学 ( new institutional economics ) というのがそれだそうです。で、このアプローチで見て行った場合に、個々人の挙動について、(少なくとも)次の3つの理論が成り立つことがわかっています。
  1. 取引コスト理論
  2. エージェンシー理論
  3. 所有権理論
これらは全て、
  • 判断をくだすために必要な情報を取得するにはコストがかかる
  • 判断をくだすために必要な情報がを保持・参照するにはコストがかかる
  • 判断をくだすために必要な計算量・演算量に応じてコストがかかる
  • 判断をくだすために必要な情報が何なのか、わからなくなる事があり、それを解決するにはコストがかかる
という4つのコストの存在から出発しています。これらのコストが存在するのに、経済効果を最大化しようとすると…つまり欲の皮を突っ張らかせると、起こる現象に関する説明です。


次からは順に内容の説明と、それが Customer とのコミュニケーションにおいてどう大切なのか、見ていきましょう。あ、Customer は先に定義したCustomer の方ね。